2012 Fiscal Year Annual Research Report
14-16世紀エジプトにおける徴税と村落社会:土地台帳をてがかりに
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12J06212
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Research Institution | The Toyo Bunko |
Principal Investigator |
熊倉 和歌子 財団法人東洋文庫, 研究部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 「イクター制」 / 灌漑 / ナイル / 環境 |
Research Abstract |
本研究の目的は「灌漑、収税、農産物の流通の過程とそれに関わる人びとの役割と関係性について考察し、14-16世紀のエジプトにおける村落社会と地方統治の構造を明らかにすること」である。本年度は特に、「灌漑」に着目した研究をおこなった。 従来の研究では、この時代、君主(スルターン)が配下の軍人に土地の徴税権(イクター)を分与することによって軍事支配層内部の関係を規定する一方、徴税権を得た軍人が村落での徴税と農地の維持を担うことによって地方統治の体制を築いたとされている(「イクター制」)。しかし、降水量がほとんどなく、水源をナイルの灌漑に依拠するエジプトでは、君主一軍人一村落という単線構造だけでなく、より広域的かつ統合的な支配・管理体制が必要であったのではないか(例えば、水域単位での管理体制など)と考えられた。そこで、ナイルの灌漑設備のうち最も重要な役割を果たした灌漑土手(ジスル)に焦点をあて、その維持管理体制について研究をおこなった。この結果、毎年の土手の維持管理を特定の村落が担っていた状況がわかった。さらに、各村においては農民・村の灌漑管理役(ハウリー)・村長、各灌漑土手においては灌漑土手の管理役、各県においては調査官・アラブ部族長が灌漑土手の管理にあたるという、重層的な管理体制があったことが明らかとなった。 今後はこの研究成果を踏まえて、この灌漑の管理体制と土地保有、および徴税の問題を結びつけて考え、村落社会の自立性と国家の役割について検討していく予定である。その予備的研究として、国家が土地の徴税権をどのように分与していたかという問題(土地保有の問題)についての論考も提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」と計画から大きくはずれずに、一定の成果をあげたと見なせる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画通りに進める。今後は、環境要因(ナイル灌概)が土地制度や徴税制度にいかなる影響を与えるかという点に留意しつつ、村落社会の様態を研究する。
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Research Products
(5 results)