2012 Fiscal Year Annual Research Report
土地所有秩序の再編と福山義倉の歴史的意義-近世近代移行期地域社会論-
Project/Area Number |
12J06544
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
平下 義記 広島大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 福山義倉 / 土地取引 / 質地請戻慣行 / 相互扶助 / 救済 / 名望家 / 旧藩主 / 旧藩的社会秩序 |
Research Abstract |
本研究は、近世近代移行期における土地所有秩序の変容過程を在地レベルで実証、特に福山義倉という地方名望家の相互扶助的社会事業団体の分析を基軸に加えることによって、日本近代化の具体的歴史過程を地域社会の視座から明らかにすることが目的であった。本年度の具体的な実績は、以下の2点に集約することができよう。 1,近世後期の村内土地取引構造について、具体的ケーススタディを踏まえて明らかにしたこと。 従来、近世における土地取引は地主的土地所有を抑制することが、暗黙の前提とされてきた。これに対し、本研究では、福山藩領の備後国芦田郡金丸村(現・広島県福山市新市町大字金丸)の庄屋家文書に含まれる土地移動を控えた史料を中心的分析素材とすることで、当該期の土地取引が、中下層農民を中心的な担い手としていたことや、一般に地主的土地所有を招来するとされる商業的農業の進展が、むしろ村落共同体の維持に寄与していたことを明らかにした。その成果は、『社会経済史学』に論文として掲載した。 2,明治期における福山義倉の展開過程を、できうる限り実証的に明らかにしたこと。 福山義倉に関する既存の研究史は、その経営的側面を重視した論文があるのみであった。それに対し本研究では、明治期における組織変革過程の実証を通じて時期区分を確定させ、義倉の事業内容が各時期に即応的に展開していたことを解明した。特に、義倉が近代法の裏付けを持たない任意の団体から民法に根拠を有する財団法人に変化する際、旧福山藩主・阿部家の意向が決定的な規定性を与えていたことを発見、さらに村レベル名望家が義倉に救済されることによって家経営を維持していたことを実証、<旧藩主・阿部家>―<義倉>―<村レベル名望家>という支配の重層性を想定し、これを旧藩的社会秩序として概念化した。以上の成果の一端は、関西農業史研究会において報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画において本年度は、史資料の整理・収集や研究環境の充実を図り、将来への研究基盤を確立することを目的としていた。成果としては、義倉所蔵文書や旧福山藩主・阿部家文書、個別の名望家文書、地元新聞資料、各種刊本統計などを渉猟できた。以上の諸文献は、従来活用されなかったり存在すら知られないものもあったが、より実証レベルの高い研究論文を発表するための研究基盤を形成する上で重要な手がかりとなるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究のタイムスパンは、明治期を中心に、部分的に近世後期と大正期にも言及するというものであったが、今後は、近世近代移行期論としての内実を詰めるため、叙述の力点を近世後期と大正・昭和期に置くことが重要な作業となってこよう。また、本研究の方法論的な課題として、社会経済史的手法を採用しつつも、必ずしもそれが十分なものではない、ということがあった。そこで、次年度は、東京大学大学院経済学研究科に研究従事機関を変更、関係研究会での報告・討論を通じて、その欠を埋めることを目指す。 以上の2つの方針により、本研究の意義はより深くなるものと期待されよう。
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Research Products
(2 results)