2012 Fiscal Year Annual Research Report
東アジアにおける黒色炭素粒子の降水による除去過程の解明
Project/Area Number |
12J06736
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大畑 祥 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | エアロゾル / ブラックカーボン |
Research Abstract |
降水に含まれる黒色炭素粒子(BC)の質量濃度・粒径分布はBCの湿性沈着を理解する上で重要なパラメータである。私はそれらのパラメータを測定する新しい測定法の詳細な評価を行った。測定法は超音波式ネブライザー(USN)とBC測定装置(SP2)で構成される。まず、USNによって降水サンプルを微小液滴に変化させ、液滴を蒸発させることにより液滴内に含まれていたBCを大気中に取り出す。取り出された個々のBCの質量はレーザー誘起白熱法を用いてSP2により測定される。近年、水サンプルから大気中にBCを取り出すUSNの効率(抽出効率)が、BCの粒径に依存することが報告された。そこで私は、約100nmから1000nmの範囲で12種類の異なる粒径を持つポリスチレンラテックス粒子を用い、USNの抽出効率の粒径依存性を正確に決定した。USNの抽出効率は200_500nmの粒子に対して最も高く、それより大きな粒子に対して効率が大きく減少することが分かった。抽出効率の粒径依存性を考慮し、この測定法によるBC濃度測定の確度と再現性はそれぞれ土25%と±35%と求まった。本研究により、降水中に含まれるBCの濃度・粒径分布のより正確な測定が可能となった。私はこの研究成果を国際学会にて口頭発表し、論文を査読付き国際誌に投稿した。 本測定法を用い、沖縄県辺戸岬で1日毎に採取された雨水サンプルの長期観測(2010年4月~)を共同研究として継続して行っている。大気中のBC濃度も常時測定し、大気中・雨水中のBC濃度と湿性沈着量の季節変化を明らかにしつつある。また、国立極地研究所と協力し、本測定法を用いてグリーンランドの雪に含まれるBCの測定を開始した。 グリーンランドの雪サンプルを試験的に分析した結果、サンプルによっては粒径500nmを超える大きなBCの存在量が無視できないことが分かった。現行のSP2によるBCの測定粒径範囲は70-850nmであり、より大粒径のBC(~2Fm)まで測定できるようSP2の検出器と制御ソフトウェアの改造に着手している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
雨水中のBCの測定法を詳細に評価し、改良したことにより、雨水中のBCの濃度・粒径分布をより正確に測定できるようになった。これは、研究の目的である「BCの降水除去過程の解明」を達成する上で基盤となる重要な成果である。沖縄県辺戸岬における長期観測も計画通り継続し、大気中・雨水中のBC濃度と湿性沈着量の季節変化を明らかにしつつある。今後は、大気中のBCの濃度・粒径分布・被覆量・吸湿性を同時に測定する測定法を確立し、大気中のBCの微物理量が降水除去効率に与える影響を観測から明らかにする必要がある。以上の点を考慮し、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
雨水中のBCの濃度・粒径分布の測定法の確立に続き、大気中のBCの吸湿性の測定法を確立する。親水性物質により被覆されたBCの吸湿性は、BCの降水除去効率に強く影響すると考えられる重要なパラメータである。SP2に導入するサンプル空気の相対湿度を制御し、粒子がSP2のレーザーを通過する際に発する白熱光・散乱光の波形データを解析することにより、各粒子の吸湿性を測定することを目指す。本測定法の重要なポイントである、相対湿度の正確な制御とSP2で得られる波形データの処理について、先行研究の調査や同分野の研究者らとの議論を通じて最適な方法を考案する。室内実験により測定法の評価を行った上で、東京・沖縄の大気中のBCの濃度・粒径分布・被覆量・吸湿性と降水に含まれるBCの濃度・粒径分布を同時に高時間分解能で測定する集中観測を計画・実行する。
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