2012 Fiscal Year Annual Research Report
水の新規水素結合ネットワークの探索と物性:炭素ナノ構造を用いた研究
Project/Area Number |
12J06991
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
客野 遥 首都大学東京, 大学院・理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ナノ炭素 / 水 / 液液転移 / ガラス転移 / カーボンナノチューブ |
Research Abstract |
(研究1)直径1.1nm以下のSWCNTへの水吸着実験 市販の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)原料から直径約0.8nmのSWCNTを高濃度に抽出し、筑波の高エネルギー加速器研究機構内のフォトンファクトリーにて粉末X線回折(XRD)実験測定を行った。室温から100Kまでの温度範囲で測定した結果、飽和水蒸気と共に封入された試料のXRD回折パターンは、乾燥状態の試料の回折パターンと比べて僅かに変化した。この回折パターンの変化がSWCNTの内部に水が吸着したことによるものであるかどうか、現在解析中である。 (研究2)直径1.4nm近傍のSWCNTに内包された水のダイナミクスおよび水素結合ネットワークの研究直径1.17、1.45、1.68、2.00nmのSWCNT試料を用意した。試料をそれぞれ重水と共に石英管に封入し、2H-NMR測定を行った。本測定により得られた2H核スピン-格子緩和時間T1によって、SWCNT試料に内包された水分子の回転運動の相関時間τの温度依存性を明らかにした。その結果、本測定で用いたSWCNT試料では、試料内部の水分子が液体状態である温度領域において、その回転ダイナミクスにSWCNT直径依存性は見られなかった。この結果は、対応する直径のSWCNTモデルを用いた分子動力学(MD)シミュレーションの結果とも定性的に一致する。 (研究3)ZTCに内包された水の水素結合ネットワークの決定 示差走査熱量測定装置を用い、ゼオライト鋳型炭素(ZTC)に内包された水の比熱を測定した。得られた結果を、他の研究グループによって報告されているナノ細孔(シリカゲルおよびMCM-41)中の水の比熱と比較して議論し、内包水のガラス転移温度Tgを約150Kと見積もった。これは、それまでにXRD実験、NMR測定、MDシミュレーションから推測されていたTgの値と一致する。この結果を、吸着水の相転移挙動、構造、ダイナミクスなどに関する以前の研究成果と総合し、論文を執筆した。同論文はChem.Phys.Lett.に投稿され、2013年4月7日に受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に沿って研究が行われ、期待通りに研究が進展した。細いSWCNT(直径0.8nm)の試料の準備が進められ、細いSWCNTへの水吸着の可能性が検討された。今後、問題点を改善することにより期待した成果が得られるものと思われる。ZTCに内包された3次元的な水の研究では、論文がChem. Phys. Lett.誌に受理された。本論文は、ZTC内の水の先駆的・総合的研究の報告である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、上述の(研究1)、(研究2)を継続するとともに、当初の計画通り(研究4)「SWCNTおよびZTCに内包された水の諸物性」の研究を行う。それぞれの研究内容の詳細は下記の通りである。 (研究1)SWCNT試料への水吸着を明らかにするためにXRD回折パターンのシミュレーションなどを行い、詳細を議論する。 (研究2)SWCNT内包水の回転ダイナミクスの直径依存性をより詳細に明らかにするため、より直径が太いSWCNTモデルを用いたMDシミュレーションを行う。 (研究4)SWCNTおよびZTCに内包された水の諸物性として、電気伝導度、プロトン伝導度、比熱などを調べる。
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Research Products
(10 results)