2012 Fiscal Year Annual Research Report
途上国における言語的側面に注目した子どもの数学学力の特徴に関する研究
Project/Area Number |
12J07035
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
渡邊 耕二 広島大学, 大学院・国際協力研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 国際比較 / 数学学力 / 読解力 / テスト理論 |
Research Abstract |
途上国の数学教育の質向上を目指すならば、そのレディネスとなり得る言語的な側面、具体的には教授言語の習得度合いなどの影響は、今後さらに目を向けるべき数学教育研究の課題である。わが国の途上国における数学教育研究では、言語的な側面が子どもの数学の学びに大きな影響を及ぼすことが定性的な研究から指摘されている。ところがその程度の大きさなどについて定量的な考察はまだまだ多くはない。そのため本研究では、教育の質測定のための東南部アフリカ諸国連合(以下、SACMEQ)が行う同地域の16ヵ国・地域を対象とした学力調査やザンビア共和国(以下、ザンビア)で行われている国内学力調査のデータの二次分析を進めている。SACMEQにおいては、2000年から2002年に行われたSACMEQIIと2007年のSACMEQIIIの2回の調査結果を分析対象としている。そこでは、数学と読解力のテスト項目の難易度と識別力に着目し、解答パターンの違いという観点から参加国の特徴を浮かび上がらすことを行った。その結果、テスト得点が下位層に位置する国では、数学と読解力における解答パターンがそれぞれ類似し、またテスト得点の高低に拘らず、使用言語が英語でない国・地域、具体的にはタンザニアとタンザニア・ザンジバル島およびモザンビークでは、解答パターンが両科目で類似する傾向を得た。また階層線形モデルを用いて、読解力や性別または家で使用する言語の影響を統制して数学のテスト得点を比較したところ、素点の順位と大きく異なる結果となり、言語的な側面の影響は、各国で大きく異なるという実態が明らかになりつつある。それに加えてザンビアの国内学力調査を用いることで、読解力を英語といった教授言語だけでなく、現地語まで範囲を広げて考察できる。現在その分析に取り組んでおり、ザンビアにおける数学教育の質向上に向けた示唆を得る準備の最中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東南部アフリカ諸国に焦点を当て、国際的・国内的視点から子どもが有する数学学力を言語的な側面から考察するために、必要な学力調査のデータを入手し、近年盛んに利用されている定量的手法を用いた分析が可能なデータ処理を行った。また関連先行研究の把握も進んでおり、分析結果から新たな示唆が導かれることが十分に期待できるためである。
|
Strategy for Future Research Activity |
必要なデータとその処理はすでに行い、統計的な手法を用いた分析を現在進めている。用いる分析手法に信頼性を与えるために、テスト理論を活用した先行研究を中心に方法論的基盤を整えている。また同様の研究目的を持つ先行研究を整理し、分析結果から導かれる示唆を洗練させる理論的考察を平行している。その一方で本研究の課題は、わが国ではあまり馴染みのない観点である。そのため得られる分析結果に含まれる有益な情報を見逃す可能性は拭いきれない。そこで同様な手法を用いて日本に関するデータを分析することで、より実感のある解釈を可能とするための準備的な取り組みを行い、分析に必要なデータに対する感覚を養いたいと考えている。
|