2012 Fiscal Year Annual Research Report
外国人政策の政治理論的正当化 -帰結主義的観点からの考察-
Project/Area Number |
12J08156
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
岸見 太一 早稲田大学, 政治学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 移民政策 / 政治理論 / 民主主義 |
Research Abstract |
本研究は移民政策はどのような理由によって規範的に正当化されるかを考察する。 初年度である本年は入国管理政策のうち、特に移民選別政策と滞在資格付与基準に焦点をあて考察した。入国管理実践では、政策決定の裁量は当該国の成員が一方向的に有するべきであり、政策対象である移住希望者は決定に関与すべきではないとされている。だが政治理論の観点からはこうした既存の入国管理実践の正統性について疑問の余地がある。この点を「民主主義の境界」問題の議論、特に法的強制の有無に注目する議論を手がかりとして考察した。こうした議論においては先行研究においては「強制」概念についての論争であるとされてきたが、考察の結果、実質的な論争点は「自由」概念にあることを明らかにした。 また、政治理論とその他の社会科学との関係性についての方法論的考察も行った。具体的には理想理論一非理想理論論争についてのサーベイを行った。そのなかで有力な議論によれば、政治理論は次のように捉えられる。政治理論には、理想についての理論と制度設計についての理論という二つの要素がある。理想についての理論とは、自由や平等といった個々の規範的価値についてや、これらの間での相対的重要性を議論するものである。もうひとつの制度設計についての理論は、現状で実現可能な政策とはどのようなものかを特定し、そのなかでどれがもっとも望ましい政策であるかを提示することを目的とする。これは、政治哲学と他の実証研究の知見を融合した社会科学としての政治哲学といえるものである。この二つはまったく別のものではなく、むしろ包含関係にあり、制度設計の次元においても理想の次元における価値についての議論が常に前提とされる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究によって、移民政策の正当化理由として個人の自由という規範的価値が重要であることが明らかになった。この個人の自由という観点に照らして、移民選別政策および非正規滞在者への資格付与という二つの個別政策の規範的考察を行い、それぞれ学会報告を行った。また、政治理論の方法論についての予備的考察も行うことができた。この成果は次年度に執筆予定の論考に反映される見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究の成果により、帰結主義が課す政策がもたらす政策結果に関する規範的制約に加えて、個人の自由という規範的価値によって課される規範的制約が重要な考慮事項であることが明らかになった。したがって今後は個人の自由の価値とその他の規範的価値との関係を明らかにすることにより、移民政策についての正当化理由の一層の明晰化を目指す。次年度においては、本年度焦点を当てた「個人の自由」という規範的価値に加えて、「人民の自己決定」という規範的価値に考察対象を拡大する。とりわけ、この二つの規範的価値との間の比較優位についての考察を研究の中心とする。
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Research Products
(2 results)