Research Abstract |
本研究は,「Geベース多接合太陽電池の電流整合化を目指した,ミドルセル材料としてのInGaAs/GaAsP多重量子井戸(MQW)構造の開発」を目的に掲げており,その遂行にあたっては,(1)実用化に向けて直面するキャリア輸送上の課題を抽出すること,(2)当該課題を克服・解決するための構造設計指針を提案し,その実験的検証を行うこと,(3)実際の応用を目指して,Ge基板やカットオフGaAs基板上の成長技術を構築し,多接合セルへの組み込みや集光下での特性評価を行うこと,の三点を段階的な目標として順次達成していくことを計画している. 本年度では,目標(1)の段階を計画通り終了させた. 第一に,量子井戸セルにおけるキャリア輸送現象を直接評価する新しい手法として,キャリア回収効率(Carrier Collection Efficiency : CCE)を提案し,その評価指標としての妥当性および効果を実験的に明らかにした.CCEはセルの活性領域であるpin接合領域で励起したキャリアが外部回路に取り出される割合と定義され,光照射に起因する電流増分を逆バイアスで規格化するという非常に簡便な方法で求められる.CCEの評価において波長依存性とバイアス依存性を組み合わせることで,セルの運転時におけるキャリア輸送現象を詳細に明らかにできることを確認した. 第二に,量子井戸セルの実用化に向けて求められる「バンドギャップ1.2eV,積層数100」というMQWを導入した場合に直面するキャリア輸送上の課題を上述のCCEを用いて精査した.具体的には,(i)バックグラウンドドーピングによる真性領域のバンド湾曲が著しい悪影響を及ぼすため,補償ドーピングによって電界分布を一様にすることが極めて有効であること,(iD内蔵電界が等しくても,井戸の数が増える程キャリア回収効率は悪化すること, (iii)キャリアの脱出機構として熱的脱出が支配的であるほど,上記の効果が大きいため,トンネリングを用いた効率的なキャリア脱出-キャリア回収が必要不可欠であることを明らかにした.
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