Research Abstract |
本研究は, 「Geベース多接合太陽電池の電流整合化を目指した, ミドルセル材料としてのInGaAs/GaAsP多重量子井戸(MQW)構造の開発」を目的に掲げており, その遂行にあたっては, (1)実用化に向けて直面するキャリア輸送上の課題を抽出すること, (2)当該課題を克服・解決するための構造設計指針を提案し, その実験的検証を行うこと, (3)実際の応用を目指して, Ge基板やカットオフGaAs基板上の成長技術を構築し, 多接合セルへ実装することを段階的な目標として順次達成していくことを計画している. 本年度では目標(2)の段階を計画通り終了させた. 量子井戸太陽電池の実用化に向けては, 吸収端を1000nm程度に延ばし, かつ十分な光を吸収するために100層程度の積層が必要とされる. しかし, 多層の量子井戸を導入すると, 真性領域が厚くなるために内蔵電界が弱まり, MQWを通じてキャリアを取り出しにくくなるという問題がある. この課題を克服するために各々の層に対して次の構造設計指針を提案した. (1)光吸収係数を高め, また井戸層での蓄積圧縮歪を低減するために, 同じバンドギャップに対しては, InGaAs井戸層は高1n組成を用いて深くし, かつ薄くする. (2)ヘテロ接合形成時の格子緩和を抑制し, かつ効率的にナローギャップ化を図るため, 2-3nmのGaAs中間層を挿入する. (3)キャリアのトンネル輸送を起こすためにGaAsP障壁層の厚みは3nm以下とし, かつ悪影響をもたらす格子緩和が起こらない限りはP組成を下げる. 構造最適化の結果, In_<0.3>GaAs (3.5nm)/GaAs (2.7nm)/GaAsP_<0.4>(3.0nm)のMQWIOO層を用いてGaAsリファレンスセルよりも高いAMI. L5変換効率を実現した. 吸収端波長は1008nmまで延び, MQWに起因する内部量子効率は70%超が得られた. また, 三接合セルのミドルセルとしての特性を調べるために665nmのロングパスフィルター下での特性を評価したところ, リファレンスセルと比較して1.44倍の短絡電流密度, 1.38倍の最大出力電流密度, 1.22倍の変換効率が得られた.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は, 本年度にて最適化したMQWをGe上のデバイスに組み込むことに挑戦する. Ge上のIII-V族化合物の結晶成長では, アンチフェーズドメインの形成を抑制するために微傾斜基板が一般的に使用されている, しかし微傾斜基板上の超格子は, ステップバンチングの形成により層うねりが発生しやすいことが知られている. 来年度はま, 微傾斜基板上に均質な超格子を成長するための低温結晶成長の条件最適化を行い, 更にGe上への量子井戸セル組み込みまで目指したい.
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