2012 Fiscal Year Annual Research Report
詩的言語から見た戦後日本の共同体意識の研究--「荒地」派を中心に--
Project/Area Number |
12J08416
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
田口 麻奈 立正大学, 文学部, 特別研究員PD
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Keywords | 翻刻 / 新資料 / シェークスピア受容 / 新しい作品系列 / 習作期の雑誌 / 郷里のネットワーク(戦前) / 時局とメディアの共振 / 都市モダニズム詩誌 |
Research Abstract |
24年度は、予定していた鮎川信夫の戦前の書簡群の翻刻作業に加え、新資料の発見も多く、資料整備を中心とした成果を挙げることが出来た。 まず、上記の翻刻作業により、戦後初期の「荒地」派の活動における、多くの空白部分を埋める事実が明らかになった。博士論文の一環として、公開の準備を進める予定である。また、全集等に収められてこなかった鮎川の詩篇計8篇を、現代詩の専門誌上で解題を附して紹介した。これにより、部分的に指摘されてきた鮎川のシェークスピア受容の典拠が明らかになったほか、児童学習誌に掲載された子供向けの作品系列を明らかにし、従来の鮎川像とは異なる側面に光を当てることが出来た。 なお、予定外の成果として、鮎川信夫の実父が要職を務めていた「日本帝国文化協会」刊行の教養雑誌『向上之友』4冊の所在を確認した。同誌は、昭和10年代に鮎川信夫が編集を手伝い、習作を発表した雑誌であるが、従来未確認であった。誌面から、同誌が地縁を中心とした強固なネットワークを持ち、満州移民政策の旗振り役を果たしたことが確認できた。自我形成期における鮎川が、時局とメディアの共振を目の当たりにし、そこに反発を覚えていく過程を裏付ける貴重な資料であり、郡上の郷土史の記録にとっても重要な内容を含む。刊行者と深い関係にあった雑誌所蔵者への聞き取り調査も含め、本年度中に博士論文に収めるほか、論文化して学会誌に投稿する予定である。 上記のような計画外の収穫を得たため、24年度中に予定していた博士論文の完成・公開と、『コレクション・都市モダニズム詩誌』(ゆまに書房)第29巻の編集作業はやや遅れているが、現在、論文執筆と並行して、「荒地」や「LUNA」、「LE BAL」などの戦前のモダニズム詩誌に関連する詳細な年表や、浩潮な参考文献リストの制作を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採用一年目の計画として博士論文の完成・公開を目指していたが、上記[9.研究実績の概要]で記したように、思いがけない経路から予定外の新資料に辿り着き、その調査に多くの時間を費やすことになった。従って計画は部分的には遅れたが、研究全体の目的に寄与する成果は挙がっているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
[11.現在までの達成度]で記したように、本年度は、遅れている博士論文の完成・公開を優先的に進める必要がある。単発論文としての研究成果の発表、及び、本年度に予定していた「東大詩人サークル」機関誌の検討はしばらく先送りになる可能性があるが、まだ現物確認が済んでいない個人蔵の資料(広島県呉市の詩人により蒐集された1950年代の詩誌)に関しては、本年度中に調査に着手する。 なお、鮎川信夫の戦前の書簡群の翻刻について、公開に際して了解をとるべき関係者の探索が難航している。また、既に了解を得ていた資料所蔵者が物故したことなどから、あらためて、著作権遵守のための手続きをとる必要がある。
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Research Products
(1 results)