2013 Fiscal Year Annual Research Report
詩的言語から見た戦後日本の共同体意識の研究--「荒地」派を中心に--
Project/Area Number |
12J08416
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
田口 麻奈 立正大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 最初期詩篇の発掘 / 資料集の刊行(二冊) / エリオット受容 / 戦後詩における国家論 / 戦後の広島詩壇 / 1950年代の「荒地」 / 社会派の詩の全国的展開 / 未整理の書簡、原稿類 |
Research Abstract |
25年度は、前年度の研究成果を反映させた博士論文を提出したほか、第一次「荒地」や「LUNA」など戦前の詩誌に関連する資料集『コレクション・都市モダニズム詩誌』第29巻(ゆまに書房、2014年3月)を編集・上梓した。「荒地」同人の最初期作品の発掘、また関連年表の制作などを行い、本研究の蓄積を活かして基礎研究の拡充に貢献することが出来た。また、同じく戦前の「荒地」派の活動を伝える鮎川信夫の書簡群(前年度に翻刻済み)を上記の博士論文に収録する予定であったが、他の研究者(東洋大学の和田博文教授ほか)と協同で編纂する資料集に供することとし、同書の発刊計画を進めた。 単発論文としては、鮎川信夫の代表詩篇を扱った「鮎川信夫〈病院船日誌〉論」(『昭和文学研究』2014年9月号に掲載予定)を執筆した。この論文では、従来、断片的な指摘に留まってきた鮎川のT・S・エリオット受容の内実を掘り下げるとともに、国家共同体の役割を重んじる鮎川の思考を詩篇から導きだした。これにより、個人的な戦争体験の言語化という枠組みに収まらない鮎川詩篇の思想的な側面、とりわけ国家論としての先見性を確認することが出来た。 また計画していた通り、1954年に広島県で開催された「現代詩展」に集められた詩誌、書簡や作品原稿などの貴重資料(個人蔵)の調査に着手した。主催者と親交のあった鮎川の書簡や、「荒地」同人が参加・寄稿していた地方詩誌など多くの新資料を確認することができた。戦後の広島詩壇の動向を伝えるとともに、1950年代の「荒地」の位置を検討するための貴重な同時代資料であり、資料紹介を含め論文化の準備を進めている。また、反戦平和運動に関わる全国の社会派詩人たちの直筆の原稿類など、本研究の枠組みを超えた貴重資料も見つかっており、今後、協力者を募り長期的な取り組みを検討するつもりである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採用二年目の計画はおおむね達成したが、中心的課題であった個人蔵の資料の調査に関して、一部資料の状態が予想以上に悪く、扱いに慎重を要したため作業としてはかなり長引いている。またそのため、すでに蒐集を終えている資料(「東大詩人サークル」機関誌)の内容上の検討は優先順位を下げざるを得なくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
採用二年目の中心的課題であった個人蔵の資料の調査に関して、予想以上に膨大かっ公共的な意義の見込まれる資料群であることが判明したため、より長期的な取り組みを検討する必要が生じた。とりわけ、左翼文化活動の広範な展開を示す、全国の社会派詩人たちの直筆の書簡、原縞類などがおびただしい量に及び、保存状態も良好でないため、資料的価値の検証や修復作業の必要性を再考せねばならない。 従って、本研究の主眼である「荒地」派に関連する事項に関しては予定通り調査を進めるとともに、資料全体の取り扱いに関しては周辺の研究者や専門の所蔵機関の助言を仰ぎ、可能ならば協力を得てゆく必要がある。
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Research Products
(2 results)