2012 Fiscal Year Annual Research Report
脳磁図とトラクトグラフィによる文構造を処理する領野間の機能的・解剖学的結合の解明
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12J08931
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
太田 真理 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 言語 / 文法・統辞 / 機能的磁気共鳴画像(fMRI) / 拡散テンソル画像(DTI) / 動的因果モデル(DCM) / 左下前頭回 / 左縁上回 |
Research Abstract |
本研究では、理論言語学で仮定されている普遍文法の基本演算に基づいて、統辞構造の複雑さを定量化することで、言語の文法計算を司る神経回路の解明を目指した。まず、木構造の複雑さを定量化する指標として、枝分かれの深さを数値化した「併合度」を提案した。また、主語と動詞の対応を数値化した「サーチ数」も重要な要因であると考えて、実験をデザインした。実験では、「太郎が花子が歌うと思う」と同じ木構造を持つ埋め込み文、「太郎の兄が食べ始める」と同じ木構造を持つ単文、「太郎が歌って花子が踊る」と同じ木構造を持つ連文、という3種類の文を使用した。対照条件として、助詞を欠くため、部分的な木構造しか持たない文字列も使用した。18名の右利き日本語母語話者に対し、文や文字列を処理する時の脳活動を機能的磁気共鳴画像で計測して、文法処理に選択的な脳活動を調べた。 まず、併合度の違いによって脳活動が生じるか調べるため、埋め込み文と文字列の脳活動を比較した結果、左下前頭回と左縁上回に有意な活動の差が観察された。次に、これらの領野において、埋め込み文と単文それぞれに対する脳活動から、最も単純な木構造を持つ連文に対する脳活動を差し引くことで、脳活動の変化を詳しく調べた。その結果、左下前頭回の活動は併合度によって変化し、左縁上回の活動は「併合度+サーチ数」によって変化することが明らかになった。これらの領野間の情報伝達を、動的因果モデルで調べた結果、木構造に関する情報が下前頭回に入力され、さらに左縁上回へとトップダウンで伝達されるモデルが最適であった。領野間の線維連絡を確認するため、15名の日本語母語話者に拡散テンソル画像の撮影を行った。その結果、左上縦束・弓状束による連絡が観察され、文法処理ネットワークの解剖学的基盤が明らかとなった。以上の結果は、言語活動を支える文法処理の実体を脳活動の変化として初めて特定した画期的な発見であり、言語学と脳科学を本質的な意味で融合させた、最初の成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定していた、文法の基本演算を選択的に処理する脳領域の特定と、領野間の線維連絡の解明に加え、領野間の情報伝達まで明らかにした。さらに、これらの結果を査読有国際誌に発表した。以上のことから、期待以上の研究の進展があったと考えられる。 昭和大学医学部の金野竜太助教らと共同で、左前頭葉脳腫瘍患者と健常者で脳活動が変化する3つの言語関連ネットワークが、どの神経線維によって連絡しているかを、健常者のDTIで調べる実験を進めており、論文投稿の準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
また、東北大学の小泉政利准教授らと共同で、中米グアテマラの少数言語であるカクチケル語話者に対するfMRI実験も準備中である。カクチケル語は、文構造が最も簡単な基本語順はVOSであるが、会話における最頻出語順はSVOとなる珍しい言語である。カクチケル語話者の脳活動を調べることで、文法処理の複雑さと使用頻度に関連する神経回路の弁別を目指す。
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Research Products
(7 results)