2001 Fiscal Year Annual Research Report
格子QCD数値計算によるカイラル対称性と核子の諸性質に関する研究
Project/Area Number |
13740146
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Research Category |
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 勝一 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助手 (60332590)
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Keywords | 量子色力学 / 格子ゲージ理論 / カイラル対称性 / 核子 / 励起状態 / 構造関数 |
Research Abstract |
ハドロン物理における諸現象をその構成要素であるクォークとグルーオンを自由度とした量子色力学(QCD)における低エネルギー及び中間エネルギー領域の物理と捉えてQCD理論を基づいたハドロン物理に関する研究を取り組む必要がある。本研究の中心的課題はそのQCD理論が持つカイラル対称性がQCD真空の励起状態の一つである核子(陽子、中性子)の諸性質にどのように関係しているかという点である。 一般に量子論において空間を格子状に正則した場合(格子理論)、質量ゼロのフェルミオンがもつべきカイラル対称性が厳密な意味で定義できないとされてきた。最近の研究の発展により、5次元格子場上でフェルミオンを再定義する新しいフェルミオンの定式化(Domain Wall Fermion : DWF)では格子化されたQCD理論(格子QCD)においてもカイラル対称性を厳密に取り扱えることが判明している。本研究ではこのDWFの定式化を用いた格子QCD数値実験により、以下のような研究を遂行した。 (1)核子の励起状態: 核子N(940)と同じ正パリティを持つ第一励起状態 : N(1440)=N'、および核子と逆の負パリティを持つ最低励起状態 : N(1535)=N^*についての数値計算を行った。NとN^*との大きな質量差はQCD真空におけるカイラル対称性の自発的な破れと関係している。格子場上でカイラル対称性を保持できるDWFを用いた格子QCD数値計算によって非常によく再現されている。しかしながら、N'に相当する状態はN^*よりも重い状態として現れ、実験でわかっている質量スペクトラムとは異なっている。これは非相対論的なクォーク模型やバック模型などのポテンシャル模型共通に見られている質量スペクトルに一致している。本研究の結果は、以前から知られていたN(1440)に関しての理論と実験との食い違いが単にポテンシャル模型自体の問題ではなく、N(1440)の構造に関わる重要な問題であることを示唆している。 (2)中性子ベータ崩壊定数: 中性子ベータ崩壊定数は、核子スピンクライシスの問題を考える上で必要な核子のスピン偏極構造関数の第一モーメント(核子軸性電荷)にも関連した物理量で、格子QCD数値計算を用いた核子構造関数の研究を遂行する上で、その数値計算の信頼度の指標となるものである。格子QCD数値計算でいままでに得られた値は実験値と比べて約25%も小さいものになっていたが、DWFを用いた格子QCD数値計算では実験値を非常によく再現することが確認された。これはDWFの持つ厳密なカイラル対称性が擬ベクトルカレントの保存を保証していることと強く関係している。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] S.Sasaki: "Nucleon axial charge from queunched lattice QCD with domain wall fermions and improved gauge action."Nuclear Physics B(Proc. Suppl.). 106. 302-304 (2002)
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[Publications] S.Sasaki: "A lattice study of the nucleon excited states with domain wall fermion"Physical Review D. (印刷中). (2002)