Research Abstract |
力学環境の変化に対する骨組織の適応的な再構築のメカニズムを明らかにするために,その素過程である細胞の活動に着目し,力学環境の変化が細胞の活動に与える影響について検討した.特に,力学的刺激に対する骨芽細胞の細胞内カルシウムイオン濃度の変化は,他の様々な細胞内シグナリングカスケードの上流に位置しているため,骨形成過程において重要な働きをしている. 本研究では,細胞が力学的刺激を感知するための機構の中でも,特に力学的刺激を細胞内部へと伝達する経路において重要な役割を果たしていると考えられているアクチンファイバーが,細胞内において配向した特徴的な構造を有していることに着目し,この構造的特徴が,力学的刺激の伝達機能に対して影響を与えているとの仮説の下,実験を行った.単一の骨芽細胞に対して,マイクロニードルを用いて,その大きさと方向を制御した定量的な変形を与え,力学的刺激に対する細胞応答として細胞内カルシウムイオン濃度の変化を観察した. マイクロニードルを用いて,骨芽細胞に変形を与えた実験の結果,細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が観察され,力学的刺激に対して,骨芽細胞が応答を示すことを確認した.また,骨芽細胞が応答を示す変形の大きさに閾値が存在し,骨芽細胞は,比較的微小な変形に対して応答を示さず,ある値を超えた変形を与えた場合に応答を示す結果を得た.さらに,変形を与える方向を変化させた場合,変形を与える方向と,応答を示す細胞の割合との間に有意な正の相関が認められることを示した. このように,本研究の結果より,力学的刺激に対する骨芽細胞の応答特性において,刺激の閾値およびその方向依存性の存在を示しており,骨芽細胞の力学的刺激伝達メカニズムに対する重要な知見を得ている.さらにこれらの結果は,分子レベルの複雑な微細構造からなる細胞内力学システム系における力学刺激感知能力を規範とする,新しいメカノセンサーメカニズムの開発へ向けた基礎的な考え方を与えるものと考えられる.また,骨の再生やリモデリングによる骨の構造形成過程における,骨芽細胞の活動に及ぼす力学的刺激の影響を探る基礎となるものである.
|