2013 Fiscal Year Annual Research Report
テオドール・ド・バンヴィルにおける叙情の理論と実践
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13J03118
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
五味田 泰 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | テオドール・ド・バンヴィル / 叙情 / 19世紀フランス詩 / 韻律 / 作詩法 |
Research Abstract |
初年度計画においてまず目指した、19世紀フランスにおける「叙情」Lyrismeの概念の定義についてはシルヴァン・ルマジュールSylvain LemajeurのLe Lyrisme dans l'oeuvre poetique de Stephane Mallarmeが新たな重要文献として加わり、ジェネラルな先行研究を基礎としつつもさらに今回の研究の対象であるテオドール・ド・バンヴィルの活動した19世紀後半に特化した研究として大きな貢献をなした。バンヴィルにおける叙情は19世紀ロマン主義からの反古典主義的態度の中に位置づけられるものであり、特に風刺的で滑稽なテクストにおいても共存しうるオリジナルなものである。 叙情概念の定義と平行して行われた、バンヴィルの叙情の理論面の把握には、多くは定期刊行物に発表されたままになっている批評文の存在を無視することはできない。本年度はバンヴィルの活動の前半から中盤まで(1848-1869)の劇評、時評の収集を終えたが、1869年から彼の1891年の死までに残されている文章の量は少なくなく、二年目においても、理論と実践面から詩人の叙情概念の総合を目指す作業と並行しつつ収集を続行する必要がある。バンヴィルの生前に出版された理論的テクストの中で最も重要な『フランス詩小論』については、概説的な論文を一本執筆することができた。 バンヴィルの詩的実践における叙情の諸相をさぐるべく、彼の韻文作品は全て検討分析の対象となる。まず彼が生前に編んだ詩集から外されたもの、生前詩集に収録されなかった一連の作品を分析し、その韻律的特徴を全て記述することができた。また、昨年度中に2011年より刊行の始まっていたシャンピオンのバンヴィル戯曲全集が完結し、そこには多くの未発表の作品が含まれている。それらの作品の詩句についてもすでに記述・分析をすませた。これにより、バンヴィルの韻文コーパスは、ドゥヴォシェルDevauchelleによる先行研究よりも相当に大きなものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
19世紀フランスおよびバンヴィルについての重要な研究が複数発表され、バンヴィルにおける叙情の概念の規定には大きく貢献した。一方、バンヴィルの理論的テクストの収集については彼のキャリアの前半部が終了した。量的には後半部に比して大きくはないが、二年目は初年度に得たノウハウによってより速やかな収集が可能になるものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
叙情についての先行研究を踏まえ、バンヴィルの叙情について、彼の詩的実践と理論的テクストから読み取れるものの総合を測る。バンヴィルの詩的実践の分析については、ほぼ全ての詩句の記述が終わっており、それらのデータの総合を行う。理論面でのコーパスの完成、およびそこからバンヴィルの理論的立場をよりはっきりしたものとする。そのためにはバンヴィルの未発表理論的テクストの収集をいち早く終えなければならない。
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Research Products
(1 results)