2014 Fiscal Year Annual Research Report
戦後日本の社会調査に関する基礎研究~都市と職業の社会学に向けて
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13J04477
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
武岡 暢 一橋大学, 社会学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 都市 / 職業 / セックスワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の研究計画において2014年度に行うはずであったビル管理業のケーススタディを、前倒しして2013年度中に行ったことによって研究計画に変化が生じ、2014年度に実施した研究内容は以下のようになった。 (1)セックスワークのフィールド調査:2013年度中に歓楽街の不動産業者に対する一定のインタビュー調査を実施した結果、歓楽街の地域社会構造、地域経済構造の全体像を描き出す見通しを得ることができた。その全体像の描出にとってセックスワークの調査は必要不可欠なものであるが、複数店舗の経営者ならびにワーカー本人に対して聞き取り調査を行い、また店舗空間の観察調査も実施することができた。これによって歓楽街の社会構造において最も基底的な要素であるセックスワークが、その他のさまざまな要素(ビルオーナーや不動産業者、自治体、警察、あるいは客引きやスカウトといった周辺的諸職業)との関連において、自身の労働をどのように意味づけ、またどのようにセックスワークに定着し、どのように縛り付けられているかを明らかにすることに成功した。 (2)歓楽街の事例研究の論文執筆:以上(1)の成果を以て、歓楽街の事例研究についてまとまったアウトプットを行うことが可能になったため、2014年度の大半はこれを一定の成果として論文にまとめることに費やされた。 (3) Robert K. Mertonのアーカイブ調査:研究計画中の主要な要素をなすアーカイブ化作業について、さまざまな予備的調査を行っていたなかで、ニューヨーク市のコロンビア大学内に社会学者Robert K. Mertonのアーカイブが存在し、しかも大量の経験研究の素材や未公刊資料が所蔵されていることが明らかになった。そのため実際に現地に赴き、一部資料の撮影を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内でのアーカイブ調査が難航している一方で、具体的な都市のフィールド調査においては予想以上の進展が見られ、また国外のアーカイブへのアクセスならびに調査について道筋を付けることができた。そのため、全体としてはおおむね順調に進展していると評価できる。 国内でのアーカイブ調査については、資料の現存状況が予想していたよりも悪く、大幅な計画の変更を余儀なくされた。ただし、従来の計画において調査対象としていた資料の部分的な散逸が確認されたことそれ自体も進展と評価することも出来るし、また調査過程において他の重要な資料に出会ったことも有意義であった。 具体的な都市のフィールド調査については、性産業でのインタビュー等の非常に困難な調査を実施することに成功し、またそれによってまとまった形の論文として仕上げることが出来たことの意義は大きい。というのも、論文の執筆によって、改めて調査の意義が明確化し、また今後の研究への方向性を検討することが可能になったためである。 さらに、ニューヨーク市のコロンビア大学内にあるR.K.Mertonのアーカイブにコンタクトを取り、また実際に現地に赴いて資料調査を行ったことは、当初は全く予想していなかった有意義な展開であった。オンラインで閲覧できる資料カタログからも充分に予想されたことではあったが、質的にも量的にも極めて充実したアーカイブが存在し、しかもそのうちにはMertonの未公刊の研究が多数含まれている。Mertonには、出版直前まで研究を仕上げながら、結局出版に至らなかったプロジェクトがいくつかあり、その最大のもののひとつは「職業」に関連する。しかも理論家と考えられがちなMertonがこれを1950年代に経験的に展開していたことは、本研究課題にとって大きな意味を持つ発見であった。
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Strategy for Future Research Activity |
国内でのアーカイブ調査では当初目的としていた資料の部分的な散逸が確認された。そのため、調査過程で新たに発見された別の重要な資料についての分析に切り替える予定である。こうした変更によって、本研究課題の遂行には若干の遅滞が見られるが、何人かの研究協力者の助力を仰ぐことによって解決できるものと考えられる。 当初の研究計画において、2015年度には国外の研究者との共同研究をスタートするものとしていた。しかし上記のような計画変更に伴って、こうした共同研究の実施はきわめて困難なものとなった。とはいえそれと同時に、国外に重要なアーカイブ(R.K.Mertonのもの)が存在することが明らかになり、またそのプレ調査を行うことができたことから、単独研究での国際比較という方向性が見えてきた。しかもこれは、本研究課題の中核である1950年代の日本の社会調査データの再分析を、やはり1950年代のアメリカの社会調査データとつき合わせるという、より直接的なかたちでの歴史的国際比較研究であり、むしろ意義は増したとも言える。 ただし、実際に米国に赴いてのアーカイブ調査にはいくつかの課題があり、今後はまずもってその課題をひとつひとつ乗り越えていく必要がある。第一には、当該アーカイブに関連した事前調査を周到かつ綿密に実施する必要がある。高いコストを支払って現地に赴くに当たっては、それを有意義なものとするための周辺情報の調査、学習が不可欠である。第二に、プレ調査で明らかとなったのは、大量の微細ともいえる資料が現存していることであって、当時の米国のかなり細かい点にまで分け入った理解が必要となる。研究計画の変更の方向性自体はきわめて有意義であると考えられるため、その実施に当たっての必要な諸点の解決が今後の課題推進にとっては肝要である。
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