Outline of Annual Research Achievements |
多くの昆虫種は自らの生存に必須な共生微生物を維持するための特殊な共生器官を発達させる.本研究では,昆虫と微生物の間に必須共生関係が進化する過程で,いかに共生器官が獲得されたのかを解明するため,多様な共生器官を発達させるナガカメムシ類を対象とし,菌細胞塊の進化発生学的起源とその発生を制御する分子機構の同定を目指す.本年度は,名古屋大およびケルン大学に滞在し,発生学の研究に頻繁に用いられるカメムシ種Oncopeltus fasciatusを用いて,遺伝子機能解析のための卵への微量注射およびトランスジェニックカメムシの作製に取り組んだ.本種はゲノムが解読されており,ヒメナガカメムシに近縁であることから形質転換実験のテストとしてふさわしい.まず,注射法を確立するため,卵の後極側から蛍光色素を注射し,蛍光顕微鏡によって経時的に観察することで,色素の卵内への浸透の確認と半数近くの孵化数確保を達成した.この手法を活かせば,今後さまざまな遺伝学的ツールの導入が可能である.続いて,GFP,DsRedタンパク発現ベクターとヘルパープラスミドを400個の卵に注射し,2世代にわたるスクリーニングを行ったところ,全てのG0世代の親のDNAに挿入配列は確認されず,計2974個のG1卵には蛍光が見られなかったことから,今回用いた手法はナガカメムシの形質転換には最適ではないことがわかった. 次に,菌細胞塊の発生を制御する遺伝子群を同定するため,前年度に得られたヒメナガカメムシ胚全体の遺伝子発現データに加え,レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)法により単離した局所的な細胞群由来のRNA-seqを行い,組織特異的な遺伝子発現のデータを取得した.結果,300個以上の遺伝子発現が大きく変動していることが判明し,菌細胞共生の成立に重要な遺伝子群の候補を得ることに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
卵注射および形質転換実験については,成功はしなかったものの,基礎となる技術を習得することができ,今後の課題が明確になった.加えて,海外の研究者との協力体制を築くことができた.また,研究対象の遺伝子発現変動のデータを十分に取得したことにより,これから機能解析実験にスムーズに移行することが可能である.総じて,研究は順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
今後, 形質転換については注射するベクター配列や発現プロモーター等を改変し,実験の成功を目指す. また, 遺伝子発現データの解析結果から, 有意に変動していた候補遺伝子を厳選し,すみやかに機能の解析,発現局在の確認を行い,本年度中の成果発表を目指す.また,これまでに得られている成果についても積極的に国内外の学会で発表するとともに、随時学術論文として投稿する予定である.
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