2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J06600
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
新国 佳祐 東北大学, 大学院情報科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 文処理 / 日本語 / 句読法 / プロソディ / 両義文 / ガーデンパス文 / 読み時間 / 瞳孔径 |
Research Abstract |
文あるいは文章の読みにおいては, 黙読時でも心内で生成される音韻情報が文構造の解析に少なからず影響を及ぼすこと, および, 句読法における読点(カンマ)がそのような文字情報の音韻化において重要な韻律(プロソディ)情報を喚起することが指摘されている。本年度は, 英語等の言語と比較して句読法の規則が厳格でない日本語において, 読点が文の構造決定にどのような影響を及ぼすかを実験によって明らかにするというアプローチから, 読みにおける内的な音韻情報の文処理における役割について考察することを最終的な目的として主に三つの実験研究を行った。第一実験では, 構造的に二通りの解釈が可能な両義文の処理における読点の役割を, 文の読み時間を指標として検討した。その結果, 両義文がその両義性の解消に十分な意味的な情報を含む場合でも, 意味的に好まれる統語的境界(節境界)に置かれる読点により両義性解消にかかる処理コストが減少することが示された。次に, 文が構造上の一時的な曖昧性を有するガーデンパス文の読みにおける読点の影響について検討した。この実験での主要な結果は, 読点の位置が主要な統語的境界とは不一致の場合は最終的に文の処理コストが増加するが, そのような不一致が判明する以前の領域では読点によりコストが減少していたことであり, 読み手は文中の局所局所で, オンラインで読点の挿入位置という手がかりに依存して文の曖昧性の解消を行っていることが示された。以上二つの実験は文の読み時間を主要な指標として行われたが, 認知的な処理負荷の量をより直接的に反映する指標として瞳孔反応(瞳孔径)を採用した実験研究も行い, 上記のような意味的情報および読点の有無が, 文の曖昧性解消時の瞳孔径の変動に影響していることを示し, 先の研究で得られた両者の読み時間への影響が確かに高度な認知的処理の際の負荷に関係していることを確認した。以上の実験より, 日本語でも音声言語における韻律情報同様に, 読点が文の両義性・曖昧性の解消にオンラインで寄与していることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に予定されていた実験研究はすべて計画通りに遂行され, 得られた結果もおおむね予想された通りのものであった。文の読みにおいて潜在的に喚起される音韻情報(韻律情報)の役割の検討という本研究の目的において, 潜在的な韻律情報と最もかかわりが深いと考えられる読点(カンマ)という情報が文処理に及ぼす影響について, 心理言語学的な実験手法を用いて明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は主に読み時間を指標とした実験的研究を行ったが, 本研究の目的を達成するためには最終的に, 言語処理の過程においてどのような処理がどんな順序で進んでいるのかを明らかにする必要がある。この点について, 本年度に行われた実験に関してはいずれも読み時間の増加や減少として表れると考えられる処理負荷の増減をもとして間接的に推察しているという点に注意が必要である。今後は, 上記の点について直接的に検討することが可能な事象関連電位(ERP)を指標とした実験研究を計画している。ERPを用いることにより, 読点の文処理への影響は文の音韻化の過程において韻律情報を喚起することによるものなのか, ならびに, 読点だけでなく意味的・談話的情報も音韻化の過程に影響を及ぼすのかという点を明らかにできることが期待される。
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