2014 Fiscal Year Annual Research Report
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13J06604
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
内川 勇海 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 古代ギリシア / ギリシア法 / 古典期アテーナイ / 刑罰 / 殺人 |
Outline of Annual Research Achievements |
口頭報告(国内2、海外1)を行い、論文1本を執筆した。国内での口頭報告と論文では、古典期アテーナイの死刑が、殺人罪やその他の罪として裁かれる可能性について十分に考察されなかった点に着目し、ある政治体制下で実施された処刑を、体制転換後に殺人罪として裁く事例を確認した。また正規の裁判を経なかったり、私人が役人の代わりに処刑を実行したりする事例などでも、殺人罪で訴えられる現実的なリスクが存在したことを示した。またジュネーブでの口頭報告では、アテーナイの4種類の処刑方法について考察した。これらの処刑方法に共通する特徴として、間接的な処刑方法の採用により、処刑の責任者の特定を困難にするという要素が見出された。これは上述のように、アテーナイでは処刑と殺人罪に問われる殺人行為の境界があいまいであった点と関連する。死刑判決に関わった者たちも、殺人罪で訴えられる可能性があったことを考慮すれば、間接的な処刑方法には、特定の個人が処刑の責任を負い、殺人罪や不当な処刑を行った罪で訴追される事態を防止する機能があったと見做すことができる。この結論は、流血による穢れを回避するためという従来の学説よりも包括的な説明に成功している。以上の研究成果は殺人、姦通など個々の犯罪領域において、法文がどのように解釈され、法手続がどのように運用されたのか、という第一の課題に関連する成果である。アテーナイ法の特徴を理解するという第二の課題については、日々の研究の中で考察を続けている。第三の課題である他の法体系との比較検討に関しては、特にローマ法・教会法との関連について考察した。また本年度も学会や読書会に発表者、聴講者として参加し、史料収集のためアテネ考古学博物館やオックスフォード大学などの研究機関を訪問した。さらに来日した研究者の講演会にも参加し情報交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古典期アテーナイについて、殺人、姦通、涜神など個々の犯罪領域において、法慣習、社会倫理、宗教規範などとの関わりの中で、法文がどのように解釈されていたのか、法手続がどのように運用されていたのか、という第一の課題に関しては殺人を中心に姦通罪も分析の対象としつつ、口頭報告や論文の形で研究成果を公にした。アテーナイ法の特徴を理解するという第二の課題については、個別的な研究成果は公にしなかったが、日々の研究の中で、考察を続けている。第三の課題である他の法体系との比較検討に関しては、ローマ法や教会法との比較を通じて、アテーナイ法の特質を把握するように努めた。以上の理由から、第一の課題を中心に、第二・第三の課題についても、ある程度の進展がみられることから、本研究課題の当初研究目的はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
古典期アテーナイについて、殺人、姦通、涜神など個々の犯罪領域において、法慣習、社会倫理、宗教規範などとの関わりの中で、法文がどのように解釈されていたのか、法手続がどのように運用されていたのか、という第一の課題に関しては、引き続き殺人を中心として、法律とその背景にある社会規範などとの相互作用に留意しながら、古典期アテーナイ人たちがいかにして現実の犯罪に対処していったのかという問題に取り組む予定である。アテーナイ法の特徴を理解するという第二の課題については、これまでの研究で見えてきたいくつかの特徴を整理することで、なぜアテーナイ法がそのような特徴を有するに至ったのかという点を考察したい。第三の課題である他の法体系との比較検討に関しては、今後や英米法や現代日本の法律とも比較して検討していきたい。
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Research Products
(5 results)