2013 Fiscal Year Annual Research Report
テラヘルツ波を用いた強相関電子系の超高速スイッチング現象の開拓
Project/Area Number |
13J06679
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮本 辰也 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 超高速現象 / 高強度テラヘルツ波 / 有機電荷移動錯体 / 電子型強誘電体 / ポンプ―プローブ分光法 / 一次元モット絶縁体 / 非線形光学効果 |
Research Abstract |
将来の情報通信を担う技術として、電子デバイスにおける処理速度の限界を超えた光による超高速スイッチングデバイスの開発が求められている。しかし、光励起によるキャリアの生成や温度上昇が、高繰り返しのスイッチングを抑制する原因となっていた。そこで、これらの問題を解決するために、光励起の代わりに高強度のテラヘルツ波を利用することを考えた。また、テラヘルツ波励起によって、温度上昇の影響のない光誘起相転移現象が達成できる可能性もある。さらに、強相関電子系におけるテラヘルツ波応答は未知の領域であり、それを解明することは、学術的にも非常に意義のあることである。 様々な強相関電子系におけるテラヘルツ波応答を検出することにより、新しい超高速スイッチング現象を開拓するとともに、その原理を解明することが本研究の目的である。実験方法として、テラヘルツ波ポンプ―光反射(第二高調波)プローブ分光測定を用い、テラヘルツ波照射による反射率(第二高調波強度)変化の時間発展を調べた。また、プローブ光のエネルギーを変化させることで、過渡反射率スペクトルを測定し、テラヘルツ波応答の起源を調べた。 まず、一次元モット絶縁体である臭素架橋Ni錯体とET-F_2TCNQにおいて、テラヘルツ波による三次の非線形光学効果を利用した超高速光スイッチングに成功した。また、過渡反射率スペクトルを解析した結果、奇と偶の対称性を持つ励起状態間の遷移双極子モーメントが非常に大きいことが分かった。次に、電子型強誘電体であるTTF-CAとその誘導体において、テラヘルツ波照射による高速の分極変調に成功した。これは、テラヘルツ波によって分子間の電子移動を誘起することによって電子的な分極が変化することによるものである。また、テラヘルツ波による分極変調をきっかけとして、分子変位が生じることを明らかにした。この結果から、この種の物質の強誘電性の安定化に分子変位が寄与することがわかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
強相関電子系である一次元モット絶縁体において、テラヘルツ波励起による超高速光スイッチングに世界に先駆けて成功した。また、電子型強誘電体の強誘電分極をテラヘルツ波によって超高速に変調させることに世界で初めて成功した。さらに、過渡反射率スペクトルの解析からこれらのテラヘルツ波応答の起源を明らかとした。研究の成果は国際会議で発表し、学術論文として発表することもできている。以上のことから、当初の計画以上に研究が進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、電子型強誘電体の強誘電分極をテラヘルツ波によって変調することに成功している。次の目標は、強誘電分極が存在しない相において、テラヘルツ波励起により分極を発現させることである。現在我々の研究室が利用できるテラヘルツ波の最大電場強度はおよそ100kV/cmであるが、この程度の電場強度ではマクロな強誘電分極を発生させることが難しいと考えられる。そこでまず、テラヘルツ電場強度を増大させる必要がある。 目標値は500kV/cmであるが、これは、テラヘルツ波を発生させるためのポンプ光の強度を大きくし、また、テラヘルツ波発生系を精密に調整することによって達成することができると考えている。電場強度を増大させた後、テラヘルツ波励起による分極生成を目指す。具体的には、常誘電相にある有機電荷移動錯体や水素結合系分子性結晶においてテラヘルツ波ポンプ―光プローブ分光測定を行い、テラヘルツ波励起による電子移動やプロトン移動が生じるかどうか、またそのダイナミクスを明らかにする。その後、マクロな強誘電相が生成していることを確かめるため、基底状態では現れない第二高調波がテラヘルツ波照射時に現れることを確認する。
|
Research Products
(10 results)