2013 Fiscal Year Annual Research Report
大江健三郎の著作活動における日本思想史的意義-「戦後民主主義」論の観点から-
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13J06845
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
北山 敏秀 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 大江健三郎 / セヴンティーン / 政治少年死す / 戦後民主主義 / 戦後日本 / 日本思想史 |
Research Abstract |
本年度は、大江健三郎の小説『セヴンティーン』及びその第二部『政治少年死す』を中心的な研究対象とした。2013年7月には日本文学協会の研究発表会において当該作品に関する口頭発表を行い、さらに、その発表をもとにした論文を作成し、同協会に投稿した。この研究における最大の成果は、当該小説が従来の研究において「モデル小説」として解釈されてきたことが、一種の神話であったことを、言語化して説明したことである。それは、単なる大江健三郎研究史に関わる成果としてあるわけではなく、「右翼テロ」という広く戦後日本史に関わる題材を扱っているという性質を小説が持っている点において、戦後文化史的、また戦後思想史的な問題にまで届く射程を持っていると考えている。具体的な考察の内容としては、1960年当時の大江健三郎にとって「民主主義」が決して単一の意味を持つものではなかったことを、文献を丹念にたどることで跡づけたことが挙げられる。そして、「戦後」を生きることと「右翼」的なものとのつながり、すなわち「戦後」において「天皇」が存在する社会に生きるということをどう捉えるのかという問題を考えるなかで、左右対立的な構図を踏み破る一瞬の跳躍=投企として、「右翼テロリスト」の「自殺」という結末を持つ小説が書かれたという結論を持った。 以上の研究実績により、戦後日本の文化的状況に少なからぬ影響を与えてきた大江健三郎という作家を総体的に捉え、その思想史的意義を明らかにするという研究の目的については、一年目の課題として一定の成果が出せたと考えている。また、今年度において、「戦後文学史」や「思想史」に関わる大学院生による自主的な研究会に複数参加したことも、研究の進展に大きく寄与した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画に基づいた学会発表を口頭で行ない、さらにその発表をもとに作成した論文を同学会に投稿した。また、自主的な研究会を複数組織することにより、研究を推進するうえで他の研究者と多くの交流を持った。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に組織した研究会を今後も続けていき、研究を推進するうえでの視野の拡大を図る。それによって、研究対象である「大江健三郎」の外部に目を向けることの重要性をより鋭利に自覚し、通史的な大江健三郎研究というより、他の思想史的・文化史的事象との相互関連性に目を向けた研究を実現することを目指す。
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Research Products
(1 results)