2013 Fiscal Year Annual Research Report
歴史思想と心性論を手掛かりとした院政期思想史の全体的研究
Project/Area Number |
13J06929
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
森 新之介 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員PD
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Keywords | 法然房源空 / 明慧房高弁 / 別解別行観 / 語録 / 絶学意識 |
Research Abstract |
本年度は、研究成果を査読付き論文1本、同研究ノート1本、そして査読なし研究ノート1本として公表した。 まず論文「法然房源空と明慧房高弁の別解別行観」では、浄土宗の法然と華厳宗の明慧がそれぞれ有していた別解別行観について検討した。法然が主著『選択集』第8章で、善導『観経疏』に所謂「一切別解別行異学異見」とは「聖道門解行学見」を指すと私釈したことを、明慧は『摧邪輪』で、法然は聖道門を群賊に譬えたことになると非難した。しかし両者は、そもそも理解の前提となる別解別行観を異にしており、明慧はそのことに気付かなかったため法然の意図を読み違え、厳しい批判に至ってしまったと考えられる。 次に研究ノート「拙著『摂関院政期思想史研究』決疑十二箇条」では、報告者が昨年1月に刊行した拙著『摂関院政期思想史研究』に平雅行から批判が寄せられたため、これに応答したものである。平からの批判は予想していなかったため、本稿は当初の研究計画にないが、報告者のこれまでの研究成果を検証し今後の課題を整理する有意義な作業となった。なお、本稿は執筆期間の制約により十分に応答できなかった箇所もあるため、来年度に続篇を執筆投稿する予定である。 そして研究ノート「院政期における語録作成と絶学意識」では、宋代道学者に見られた絶学意識に着目し、院政期に貴族や仏僧の語録が作られるようになった理由を考察した。院政期において貴族や仏僧の語録が作られるようになったが、院政期における語録の作成全体を学問現象として考察した研究は未だ見られなかった。絶学意識とは、千載不伝の絶学を継ぎ得るという楽観であるとともに、その継いだ聖学が再び絶えてしまうかも知れないという悲観でもある。たとえ如何に正しくとも学問は絶えてしまうかも知れず、それを絶やすまいとする意識が、語録という学問伝承の媒体を成立させる背景になっていたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に交付申請した直後、仏教史学会より学術大会での発表依頼があり、本来は研究計画2年目に予定していた道心論についての研究を1年目に行うこととした。しかし、研究計画全体としては順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、残された研究課題である「慈円の道理史観」などに取り組む。 また昨年、拙著『摂関院政期思想史研究』に平雅行から批判が寄せられたため、報告者はすでに応答として研究ノート1本を公表した。今後はその応答の続篇を、研究課題の推進と並行して発表していく予定である。これは報告者の研究成果を検証するとともに、今後の課題を整理する有意義な作業になると考えられる。
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Research Products
(7 results)