2013 Fiscal Year Annual Research Report
色調変化を伴う有機結晶の脱水・水和転移メカニズムの粉末未知結晶構造解析による解明
Project/Area Number |
13J07417
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
佐近 彩 東京工業大学, 大学院理工学研究科(理学系), 特別研究員(DC1)
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Keywords | 単結晶X線結晶構造解析 / 共結晶 / ベイポクロミズム / 溶媒交換転移 / 粉末未知結晶構造解析 / キノロン系抗菌剤 / 脱水・水和転移 |
Research Abstract |
本研究の目的は、有機結晶の脱溶媒・溶媒和転移等の動的メカニズムを明らかにすることと、構造に基づいた物性(色)制御を行うことである。平成25年度は以下の研究成果が得られた。 1. 有機共結晶のベポクロミズムのメカニズム解明 ベイポクロミズムを示す(溶媒蒸気により可逆に転移し色変化を示す)有機結晶の探索・構造解析を行った。このような性質を示す物質は有害蒸気のセンサー等への応用が期待されるが報告例は少ない。そのため、三次元構造に基づいたベイポクロミズムのメカニズム解明は重要である。 探索の結果、エノキサシン-3,5-ジアミノ安息香酸共結晶がベイポクロミズムを示すことを見出した。二水和物結晶は淡茶色であるが、4種のアルコール(メタノール等)蒸気によって溶媒交換転移し結晶が濃黄色に変化する。さらに、これらの結晶は水蒸気により可逆的に淡茶色の二水和物結晶に戻る。結晶の色変化の原因は結晶構造変化による分子間π. .. π相互作用の形成であると、結晶構造解析から判明した。 2. 医薬品原薬の粉末未知結晶構造解析による脱水・水和転移挙動解明 製造や保存等の観点から、医薬品結晶の脱水・水和転移挙動の解明は重要である。さらに、キノロン系抗菌剤は脱水・水和転移に伴い、結晶が色変化するため、1.の内容とも関連して、有機結晶の構造変化による色変化(物性変化)を明らかにするための手掛かりともなる。 キノロン系抗菌剤の一つであるピペミド酸は脱水転移によって結晶が無色から黄色に変化する。粉末未知結晶構造解析から、色変化の原因は脱水転移に伴って分子のプロトンが移動し、分子の平面性が高くなり共役系が広くなるためであると考えられる。その一方で、類似化合物であるエノキサシンは脱水転移しても結晶が無色のままであるが、これは脱水転移してもプロトン移動が起きないためである。この事実は、ピペミド酸の色変化の原因の考察を支持するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の計画通り、ベイポクロミズムを示す有機結晶や、脱水・水和転移に伴い色変化する医薬品原薬結晶について、探索・結晶構造解析に成功している。更に構造に基づいた転移メカニズムの解明もおおむね順調に進んでいる。結晶の色変化のメカニズムについては、今後、理論計算を用いてより詳細な議論が必要であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の研究結果を踏まえ、以下に今後の研究の推進方策を示す。 1. (ベイポクロミズムのメカニズム解明)では、結晶の色変化のメカニズムを構造解析結果だけではなく理論計算を用いて解明することが課題である。ベイポクロミズムを示す有機結晶の報告例がわずかであるため、さらなる探索を行い、現在までに明らかになっているベイポクロミズムを示す系との比較も行う。 2. (医薬品の脱水・水和転移挙動解明)では、粉末未知結晶構造解析を行っており、この手法では結晶中の分子のプロトン位置の決定が困難であるという問題点がある。この問題には、分光分析やSSNMRなどの各種分析方法を合わせて用いることで対処する。
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