2014 Fiscal Year Annual Research Report
色調変化を伴う有機結晶の脱水・水和転移メカニズムの粉末未知結晶構造解析による解明
Project/Area Number |
13J07417
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
佐近 彩 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ベイポクロミズム / 単結晶X線結晶構造解析 / キノロン系抗菌剤 / 有機結晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究背景】 本研究ではベイポクロミズム(溶媒蒸気による可逆な色変化)を示す有機結晶の探索およびそのメカニズム解明を行っている。これまでの研究により医薬品原薬であるキノロン系抗菌剤の結晶がベイポクロミズムを示すことを見出しており、平成26年度はさらに多種の溶媒蒸気を検出することを目標とした。これまでの研究から、キノロン系抗菌剤分子中におけるO-H…O分子内水素結合による疑似六員環の形成の有無が、結晶の着色の有無の原因である判明している。この現象を利用し、積極的にプロトンを引き抜くことで疑似六員環を失わせる働きを持つ、「塩基性の溶媒蒸気」を適用することを考えた。このアイデアから以下の研究成果が得られた。 【塩基性蒸気を検出するエンロフロキサシンとそのベイポクロミズムのメカニズム解明】 キノロン系抗菌剤結晶に対し、種々の塩基性蒸気(アンモニア、ピリジン、アニリン、モルホリンなど)を適用してベイポクロミズムが起こるかどうかを調査した。その結果、キノロン系抗菌剤の一種である、黄色のエンロフロキサシン無水和物結晶をアンモニア蒸気あるいはモルホリン蒸気に曝露した場合、黄色の無水和物結晶が無色の結晶に変化した。さらにこれらの無色の結晶は加熱により黄色の無水和物結晶に可逆的に戻ったことから、ベイポクロミズムを示すことが判明した。構造解析の結果、結晶中に入り込んだ塩基性分子がエンロフロキサシン分子のプロトンを引き抜き、エンロフロキサシン分子中で疑似六員環が形成できなくなり、分子の共役系が短くなることで結晶が無色になったことが明らかとなった。 以上から、目標であった「さらに多種の溶媒蒸気の検出」の達成に成功した。その色変化のメカニズムは、狙い通り、塩基性分子により疑似六員環が形成できなくなったためであると判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の主な研究計画は、「検出できる有機溶媒の種類を増やし、ベイポクロミズムのメカニズム解明を行う」ことであった。この計画を達成するために、ベイポクロミズムを示す可能性のある有機結晶に対して様々な有機溶媒蒸気を曝露したところ、新規に塩基性溶媒蒸気を検出するベイポクロミック材料(エンロフロキサシン結晶)を見出し、その色変化メカニズムを明らかにすることに成功した。さらに、この色変化メカニズムは、以前の研究内容である「キノロン系抗菌剤の結晶の脱水・水和転移によるベイポクロミズム」の色変化を応用させたものであり、狙い通りの色変化を達成することができた。結晶の色変化メカニズムについては、今後、DFT計算などの理論計算を用いてより詳細な議論が必要であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は以下の通りである。 【1.より大きい分子の溶媒蒸気を検出する有機結晶のベイポクロミズムの達成】 これまでの研究で検出に成功した溶媒は、水、アセトニトリル、4種類のアルコール、塩基性溶媒(アンモニア、モルホリン)である。これらはどれもあまり分子が大きくない溶媒分子であることから、より大きい分子の溶媒蒸気を検出することを目的とする。具体的には、ベンゼン環を持つような、例えばトルエンやニトロベンゼンのような大きい溶媒分子の検出を目指し、ベイポクロミズムを示す材料としてはπ共役系が広く、溶媒分子とπ…π相互作用することで色変化を示す化合物の設計を行う。大きい溶媒分子を結晶中に取り込むためには大きい空隙が必要となるため、共結晶化することで結晶中に空隙を作り、溶媒分子を取り込みやすい環境を作る。 【2.色変化メカニズムの理論計算による解明】 これまでのところ、色変化の原因を理論計算から解明できていないため、さまざまな理論計算手法を用いてベイポクロミズムの色変化の原因を明らかにする。具体的には、現在使用しているDFT計算だけではなく、比較的サイズの大きい有機化合物の物性評価に有用とされているSAC-CI計算などを用いて物性(色)の変化の原因を電子のレベルから明らかにする。
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