2013 Fiscal Year Annual Research Report
哺乳類における無機ポリリン酸の役割とATP産生における代替経路に関する研究
Project/Area Number |
13J07513
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
中村 彰宏 東京農業大学, 大学院農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 無機リン酸 / エネルギー産生 / ミトコンドリア / ポリリン酸 |
Research Abstract |
無機リン酸は全ての生物に必須の元素であり、遺伝情報の伝播と保存を担う核酸や生体内エネルギーの運用に用いられるアデノシン三リン酸(ATP)、また細胞の形態を維持し内と外を区分する細胞膜の主要成分であるリン脂質など、生命の根幹を担う分子に共通の構成成分であることが知られている。このようなことからもわかる通りリン酸は生体にとって重要な因子であり、すでにタンパク質の活性化制御やシグナル伝達に機能していることは広く知られている。これまでリン酸は生物にとって重要な成分であり、普遍的に存在することから不足することは考えられてこなかった。しかしながら、リン酸を吸収する組織である腎臓の疾患や、ホルモン代謝異常などでは生体内のリン酸濃度が低下することが知られている。 そこで本研究ではリン酸の重合体であるポリリン酸の哺乳類における生理的役割の解明を目指すとともに、実験環境下においてリン酸の摂取を制限しリン酸飢餓状態を誘導することで、その影響について解析を行った。初年度である本年度は酵母由来のポリリン酸分解酵素遺伝子を導入した遺伝子導入マウス(Tgマウス)の表現型解析を目指した。その結果、当初の予想通りTgマウスでは組織中のアデノシン三リン酸(ATP)量の減少と、免疫組織化学染色によりミトコンドリア内のチトクロームcオキシダーゼ活性の低下が示された。その他にもミトコンドリアによるTCA回路の活性低下を示唆する結果が得られた事から、Tgマウスではミトコンドリアの活性低下を原因とするATP産生能の低下の可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の到達目標が実験群における表現型のデータ収集であり、その点に関して充分なサンプルを得る事ができデータを獲得することができた。さらに、これらの結果から得られた考察をもとに展開しうる可能性がみえてきており、現在までのところおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の実験の結果から得られた考察では、ポリリン酸は当初予想していたATPなどのリン酸供給源としてではなく、ATP産生における中心的な細胞内小器官であるミトコンドリアの活性に関与していることが示唆された。また、実験群においてミトコンドリアの活性が低下した場合、当然ながら代謝活性の変化も認められた。したがって今後は代謝経路のどの領域に影響を及ぼしているのかを解析することでより詳細な影響を調べるとともに、原因因子とメカニズムの解明を行いたい。また、重合化したリン酸だけでなく、リン酸そのものについても解析を行う必要があり、そのためにリン酸摂取を制限した実験環境下におけるマウスについて解析を行う。このことで、哺乳類におけるリン酸の機能と、これまで見逃されてきたリン酸の吸収異常などの判断材料になるものと考えられる。
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