2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J07920
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松村 一志 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 科学の線引き問題 / 組織的懐疑 / 手続きの圧縮 / 科学システム |
Research Abstract |
本研究のテーマは、科学システムの作動を解明していくことである。当初の予定としては、科学システムの古典的な研究を参照し、再考することを課題とした。具体的には、(1) T. ギアリンの「境界画定作業」論の再考と、(2) R. K. マートンの「科学者のエートス」論における「組織的懐疑」概念の再検討である。 (1)について : ギアリンの「境界画定作業」論は、科学の定義に関して、「科学とは『科学』と呼ばれるものである」とする構築主義的な立場を採る議論である。これは、「科学とは反証可能性を持つものだ」というような内在的(本質主義的)な立場を採る議論に対するアンチテーゼである。本年度は、これら2つの立場がどちらも半分正しく半分間違っているものであることを示し、両者をより精緻な形で統合していく道筋を示した。こうした立場を明示的に打ち出すのは新しい立場であり、意義を有する。 (2)について : マートンの「組織的懐疑」概念は、科学者の持つ「あらゆる主張をまずは疑ってみる」という性質を概念化したものである。本年度は、ハーバーマスとルーマンの議論を参照し、この議論を再考するための道筋をつけた。科学システムは「真/偽」(真理性)の判定という営みからなる。しかし、科学システムの外(例えば日常生活)では、「真/偽」(真理性)だけでなく「本当/嘘」(誠実性)の判定の営みも行われる。そのため、「懐疑」といっても「偽(間違い)である可能性」と「嘘である可能性」の2つで中身が変わってくる。マートンはこうした基礎的な事情を論じておらず、科学の特性が本当のところどこにあるのかを明示しているとは言い難い。以上の基礎的事情を出発点とすることで、再考の余地が生まれることがわかった。なお、この論点は、昨今しばしば採り上げられる、剰窃・捏造などの科学の信頼をめぐる問題を考える上でも重要な意義を持つ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に関しては、当初予定していた論点を十分考察し、また結論を出すことができている。ただし、パブリックな媒体への発表はまだ出来ていない部分も残っている。そこまで達成できれば「計画以上」と言いうる達成度になったと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において、研究目的の基礎理論的な部分は達成していると思われる。したがって、今後はより具体的な事例を扱った実証研究に重心を移していくことになる。具体的な事例の分析に関しては、基礎理論的な部分に比して、研究計画通りに進まない可能性が高まると予想される。したがって、対応策は次のようなものになる。本研究では、実証研究で扱う予定の事例の候補が複数ある。そのため、複数の候補を一定期間は平行的に検討しておき、その後、成果につながる見込みの高い候補を選択して、集中的に検討する。
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