2013 Fiscal Year Annual Research Report
社会における科学的言説をめぐる、科学者の分析と展望
Project/Area Number |
13J08698
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加瀬 郁子 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 科学技術社会論 / 科学コミュニケーション |
Research Abstract |
本研究は、社会の中に埋め込まれた科学者の状況を明らかにし、そのふるまいを説明づける理論モデルを検討することにより、科学者は社会の中でどのようにふるまうことが望まれるのかを論じることを目的としている。具体的には原発事故以降の放射能汚染をめぐる科学者らの活動を対象に、彼らがどのようにふるまったのか、そしてその背景となる構造を明らかにすることを目指す。 本年度は以下の項目について研究を進めることができた。 1. 福島県で活動を行う科学者の調査 飯舘村を中心に、福島県で活動を行う科学者らの参与観察を継続して行った。 さらに文献調査により飯舘村を訪れた科学者らの動向を17か月分作成した。安全を主張する専門家と汚染の深刻さを訴える専門家とが村に登場し、安心した村民と健康影響を危惧し避難を訴える村民の対立が浮き彫りとなった2011年3月25日から、全村避難が決定する4月11日までの期間に飯舘村の専門家不信や放射能をめぐる分断の根源があることを見出した。 2. 先行研究レビューと最新動向の把握 社会の中で科学者が果たす役割の先行研究として、Collinsらを中心とした「第三の波」論争以降の専門家論がある。レビューを進めると共に、英国にてCollinsの気候変動を巡る社会的論争における専門家のふるまいのモデルを題材とした講演と議論を聴講し、専門家論の最新動向の情報を収集をした。 3. 先行事例の探索 本研究の題材は進行中であるため、評価が定まっておらず扱いが難しい。そこで既に評価が定まった類似の先行事例を分析することにより、わが国における社会に埋め込まれた科学者のふるまいのモデルの検討の足掛かりができると考え、足尾銅山鉱毒事件の際に農民らの要請を受けて土壌調査を行い、詳細な科学データを以て政府に働きかけ、社会運動の契機を作った農科大学教授・古在由直を見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の計画では予想される関係アクター図に基づきフィールドワークやインタビュー調査を行う予定であったが、実際開始してみたところ、社会的に大きな関心を呼んだ事象であるため膨大な関係者が存在し、調査対象である「科学者」をどのように限定するかで難航した。また未だ評価の定まっていない事例であり、一定の分析軸を提示することが容易ではない。これらを解決するため、先行研究の精査と先行事例の探索、そして手法の再検討を行ったため、大幅に進捗が遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
放射能汚染という題材は進行中で、複雑な要素が絡み合った事例であり、また科学的な正しさや、社会的・政治的な正義の観点から語られることが多く論争そのものが噛み合いにくいという性質を持っているため、研究を遂行する上で大きな困難を抱えている。 これらを突破する方策として、足尾銅山鉱毒事件という既に評価の定まった先行事例の調査のほか、構築主義的アプローチを導入することにより、放射能汚染という社会問題がどのような主張によって構築され、科学者と科学知はその中でどのような位置を占めているのかを整理し、現状の見取り図を把握することが有効な解決法となる。
|
Research Products
(3 results)