2013 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本の詩的言語の形成:小品文における「理科」系語彙の使用を視座として
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13J09199
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮田 沙織 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 日本 / 近代文学 / 詩語 / 理科教育 / 小品文 |
Research Abstract |
本研究は明治40年代から大正にかけて流行した詩的散文の形式である小品文における「理科」系語彙の使用を視座として、和文脈や漢文脈などによる複層的な書記体系がいわゆる言文一致体に移行する過程で、どのようにして詩的言語の形成がなされたか、そのメカニズムを明らかにすることを目的として出発した。 小品文を研究対象としたのは、それが既存の〈文〉の型の混在によって成り立っており、〈文〉の変容の過程を如実に反映していると考えられるからである。「理科」系語彙に着目したのは小品文の内容の中心が自然の風物への詩的な感興の表出に認められていたからである。 自然科学教育と文学の関係を論じるとき、一般的に"科学的知識に基づいた精密で客観的な描写"へと向かう側面が強調される。文章の仮構性を排して、言葉の世界とありのままの現実の距離を限りなくゼロへ近づけようとする指向である。しかしながら、初年度の研究において、科学の語彙それ自体が小品文をはじめとする文学作品の中でどのように流通しているか調査する中で、それらが自然科学の客観の体系を離れて、むしろ豊かな想像力を喚起する、いわば新たな詩語として機能する傾向があることに確信を深めた。またそのような詩的機能を「理科」系の語彙が持つようになった原因についておおまかな見取り図を得た。その核心は理科の言葉が自然物の背後に、「目に見えざる諸力」を可視化させることにある。 以上をもとに、日本近代文学会12月例会において「〈文〉を学ぶ--近代東アジアの教育とエクリチュール」と題し、中国や朝鮮の近代教育を比較の視野に入れたパネル発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の基盤を固め、次年度への見通しを得た。
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Strategy for Future Research Activity |
小品文にあらわれる「理科」系語彙のうち、とくに頻繁に用いられる幾つかの語彙に焦点を絞り、それぞれについて論文にまとめ、博士論文を完成させる。
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Research Products
(2 results)