2013 Fiscal Year Annual Research Report
日本と台湾における死生観の比較研究-葬儀記録と生前契約を中心として
Project/Area Number |
13J09460
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
鍾 宜錚 立命館大学, 先端総合学術研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 終末期医療 / 自然死 / 死生観 / 台湾 / 尊厳死 |
Research Abstract |
本年度は、日本と台湾における「善い死(善終)」の概念とそれにまつわる死の文化・慣習を考察し、それぞれの社会における終末期医療政策と法制化の動きを比較した。まず、台湾における延命治療の差し控え・中止の法制化について、政府による最初の公式の見解と法案に関連する国会議事録を辿り、1989年から終末期医療の法律が成立した2000年まで、「自然死」の概念が拡大しつつあることを確認した。従来、瀕死状態の患者を本人もしくは家族の代理決定で退院させ、救急車で自宅へ搬送し、そこに死を迎えさせることは事件性のない「自然死」と認められ、医療現場でも「終末期退院」という慣行が存在していた。こうした「自然死」の概念が終末期医療の法制化のなかで、「終末期退院」だけではなく、本人または家族の代理決定による延命治療の差し控え・中止の全般を指すものとなった。台湾の法制化を確認した上で、日本における終末期医療の法制化の動きと比較した。いわゆる「尊厳死」の法制化として知られた延命治療の差し控え・中止をめぐる議論の中でも、伝統的な死の概念や慣行が議論の中で変容していく傾向がみられる。本人の意思表示による延命治療の中止が尊厳ある死と主張される一方、尊厳のない死を法制化によって排除されていこうという価値判断も秘められている。それに加えて、台湾の「終末期退院」と相似しているように、日本においても自宅で死を迎えるような動きがみられている。医療社会学的に死の「脱医療化」の行方も、これからの日台研究の重要な課題である。 これまで終末期医療をめぐる先行研究では、アジア近隣国の資料が比較的に少ないことから、本研究が台湾における法制化の歴史を詳細に記述し、論文として出版したことで有意義である。また、日本と台湾における死生観の比較研究にあたって、漢民族の自宅で死を迎える伝統が後に法制化の後押しになったことを文献に則って判明したことで、死生学の研究に新たな視点を与え、重要な成果として挙げられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の根幹は、葬儀記録や生前契約など、死をまつわる行事や終末期のあり方から、日本と台湾における死生観、とりわけ「善い死(善終)」の概念を比較することである。葬儀記録と生前契約を含めて、「死に方」に対してそれぞれの社会においてどのように期待されているのか、それがどのように政策や法律に反映できたのかを本年度で検証できたので、研究の進捗としておおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、日本と台湾の死生観の比較研究にあたって、医療政策に関連する文献の収集だけではなく、医療社会学と生命倫理の視点も取り入れて、研究範囲を拡大していくつもりである。研究計画では葬儀記録と生前契約を中心に日本と台湾を比較するつもりだったが、資料収集の行っていくうちに、それぞれの参考文献や関連資料の数が不対等であるため、比較材料が少ない、比較研究が困難であると分かった。そこで、日本と台湾における死の文化とそれに転じる法制化の動き、医療政策の変化を比較することに方向変更した。これからは死の場所の変化、終末期医療に関する倫理問題を検討し、欧米圏における死生観の変化も参照しながら研究を進めていく。
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