Research Abstract |
本研究は, Li & Fischer (2007)が理論的に提唱した, 優れた他者を心から(義務としてではなく, 感情的に)尊敬することがその他者の役割モデル化と追随を動機づけ, その結果, 自分自身も尊敬した他者のように成長することができる, という"自己ピグマリオン過程(self-Pygmalion process)"が現実的に存在しうるのかを検討し, 尊敬感情の教育的機能を明らかにすることを最終目的とするものである。今年度は, 昨年度に大学生を対象に行った, 敬愛や畏怖, 心酔といった複数の尊敬感情(以下, "尊敬関連感情"とする)の概念構造や機能を探った三つの質問紙調査のデータを再分析・考察した。その結果, (1)大学生は, 日本語に豊富に存在する尊敬関連感情語を, 敬愛・心酔・畏怖・感心・驚嘆という, 基本的な5種類にカテゴリー化(概念化)し, 敬愛を尊敬のプロトタイプ的感情として捉えていること, (2)敬愛と心酔が"自己ピグマリオン過程"に関わる他者の役割モデル化や追随を強く動機づける感情であるが, 敬愛は現実的な関係のある他者(先輩や友人など)に対して, 心酔は現実的な関係にない他者(有名人など)に対して抱かれる傾向にあること, などが明らかとなった。また, 今年度は, 尊敬関連感情の生起要因に関する質問紙調査研究の準備・実施も行っている。そこでは, どのような個人差要因が, 個人の元々の尊敬関連感情の感じやすさを規定しているのか, またどのような状況要因によって, 尊敬関連感情が発生するのか, を検討することを目的としている。これらの研究に関しては, 来年度も継続して実施し, その成果を論文等で順次報告していく予定である。尊敬関連感情の生起要因が明らかになれば, たとえば研究者が尊敬関連感情を発生させるエピソード刺激を作成し, 尊敬関連感情の機能を統制された実験環境で検討することも可能となるため, 重要な課題といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は, 本研究の中心的課題の一つである尊敬感情の生起要因に関わる先行研究のレビューや自身の研究のデータの再分析を丹念に行い, 今後, 生起要因を検討する実証的研究を進める上で, 重要な1年だったと言いうる。これまで行った研究の論文化が全て達成できなかった点は次年度の課題としたいが, おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
尊敬感情の生起要因に関する質問紙調査研究を順次進めていく。また, これまでに得られた研究知見をまとめ, 論文化を進める。尊敬感情の教育的機能に関しては, 当初の研究計画では大学生での知見を基に, 高校生を対象とする縦断研究(集団の追跡調査)を予定していたが, 大学生にとっても畏怖や畏敬といった一部の尊敬に関わる感情の理解は難しく, またその典型的経験も少ないことが明らかとなったことから, 所属機関の研究者と議論をし, 当面は大学生に焦点化した研究を行い, 今後の研究基盤を固めていくこととした。その上で, 他者に尊敬感情を経験することができるようになる発達的要因を明らかにすることや, 尊敬経験が個人の発達において, いかに教育的に機能するのか, ということの示唆をできる限り得ることを目標としたい。
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