2014 Fiscal Year Annual Research Report
自己ピグマリオン過程は存在するのか?-尊敬感情の生起要因と教育的機能の検討-
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13J09637
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武藤 世良 東京大学, 大学院教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 尊敬 / 大学生 / 感情語 / 感情経験 / 個人差 / 発達心理学 / 教育心理学 / 感情心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、尊敬感情の教育的機能の一端を明らかにすることを最終目的とする。Li & Fischer(2007)は、優れた他者を心から(感情的に)尊敬することがその他者の役割モデル化と追随を動機づけ、その結果、自分自身も尊敬した他者のように成長することができる、という“自己ピグマリオン過程(self-Pygmalion process)”を提唱した。本研究はこの発達プロセスが現実的に存在するのかを検討することを大きな目的とする。本年度は、これまでの研究代表者の研究で大学生において存在が示された敬愛・心酔・畏怖・感心・驚嘆の5種類の尊敬に関わる感情(尊敬関連感情)に関して、(1)個人差の検討、(2)状況評価の検討、(3)自己ピグマリオン過程の縦断的検討(継続中)の三つの質問紙調査研究を行った。(1)では、尊敬(5種の中で特に敬愛に近い気持ち)を感じやすい個人は、将来なりたい自分が明確で、その実現に向けて努力している傾向にあることが明らかとなった。(2)では、5種類の尊敬関連感情がそれぞれ異なる状況の意味づけによって生じる可能性が示唆された。たとえば敬愛は、自分にとって親密で将来達成可能な役割モデルである他者に生じやすい一方で、心酔は、自分にとって心理的距離が遠く、達成不可能な理想である他者に生じやすい傾向にあった。継続中の(3)では、特定人物に尊敬の感情を頻繁に抱く大学生が、現実的に自己の将来像が明確であり、その実現に向けて努力していたり、尊敬する対象人物を追随していたりすると言えるのかを、約3か月の間隔を空けた2時点の追跡調査によって検討している。特に(1)の知見は、自己ピグマリオン過程の存在を傍証するものといえ意義深い。継続中の(3)の今後の分析により、自己ピグマリオン過程の具体的プロセスの一端が明らかになると予想され、教育現場にも大きな示唆を与えうると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本研究の中心的課題である尊敬感情の生起要因に関わる研究や、自己ピグマリオン過程の縦断的研究がほぼ昨年度の計画通りに実施できたため、おおむね順調に進展していると考えられる。ただし、データの収集に専念したため、これまで行った研究の成果は学会発表に留まり、論文化がほとんど達成できなかった点は悔やまれる。次年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度で、申請時また昨年度までに計画した研究に関するデータはほとんど収集できたため、今後は、詳細に分析を行い、順次論文化を進めたい。また、分析の過程で未解決の問題が出た場合には、新たにデータを収集し、補足的に検討することとする。そして、昨年度に引き続き、他者への尊敬経験が個人の発達において、いかに教育的に機能するのか、ということの示唆をできる限り得ることを目標としたい。
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Research Products
(5 results)