2014 Fiscal Year Annual Research Report
60年に及ぶ分断・障壁(ダム)の解消に伴う河川水生昆虫の個体群動態の究明
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13J10312
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
斎藤 梨絵 信州大学, 総合工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | マイクロサテライト / 遺伝的多様性 / ダム / 遺伝的分断化 / 個体群の接続性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2013年より本体撤去事業がなされた球磨川・荒瀬ダムでは、ダム建設時以来の55年間存在してきた堪水域(ダム湖域)は、流水棲底生動物にとっては棲息の場(ハビタット)として不適であるため、この堪水域よりも上流側とダム堤の下流側にハビタットが分断されてきた。また、堪水域に流入する支流・支沢に生息する流水棲底生動物に関しても、ダム建設以前は本流・球磨川を介して線的ネットワークとして連続するメタ個体群であったと考えられるが、堪水域の存在によりこれらの連続性が失われてきたと憶測される。このような背景から、本研究では、堪水域には棲息できず、かつ、球磨川本流や球磨川に流入する支川・支沢に高密度で棲息する流水棲の底生動物を対象に、荒瀬ダム撤去前後での遺伝子流動のスケールを比較することを目的とした調査・研究に着手した。 2011年に実施した予備調査において、先ず、研究対象とする流水棲底生動物の絞り込みを行った結果、球磨川本流および支川・支沢に高密度で棲息するヒゲナガカワトビケラ Stenopsyche marmorataを第一候補とすることとした。2013年度は、ミトコンドリア遺伝子の解析に着手した。 今年度(2014年度)は、より多型検出感度の高いマイクロサテライト・マーカーを用いた解析を実施した。2011-2012年(ダム撤去前)に、荒瀬ダムの上下流域およびその支川・支沢、瀬戸石ダムの上下流およびその支川・支沢採集されたヒゲナガカワトビケラ類を対象に,Yaegashi et al. (2011) にて開発された10遺伝子座におけるマイクロサテライト解析を実施した。その結果、1遺伝子座(Steno06)を除く9遺伝子座においてマーカーの有用性を確認できた。各遺伝子座から多型が確認され、9遺伝子座における解析をすすめている。今年度の研究により、マイクロサテライト解析における手法が確立された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度に解析したmtDNA COI領域よりも、より感度の高いマイクロサテライト・マーカーを用いた解析に着手し、手法を確立することを今年度における最重要課題とした。ヒゲナガカワトビケラにおいて、9座位におけるマーカーの有用性を確認し、解析手法を確立した。これらのマーカーを用いた解析結果からは、個体群ごとに遺伝的多型が検出されている。来年度から着手するマイクロサテライト解析の研究基礎・土台を作り上げた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、引き続きマイクロサテライト解析を実施する。解析解析数を増やし、 統計的な解析 (STRUCTURE解析やMIGRATE解析)を行うことで、個体群間の遺伝子構造・遺伝子流動スケールについてより研究を深めていく予定である。
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