Research Abstract |
本研究の目的は, 児童のアーギュメント・スキル発達において支援が必要になる要因を明らかにし, その支援方法について考案することである。本年度は, 自分の意見を外化する際に持論の利点のみを提示し, 反対意見の利点や持論の不利な点を無視する「マイサイドバイアス」現象に着目して研究を行った。第一に, 中学年児童の討論活動を対象とし, 討論前に意見を書き出す「準備メモ記述」と討論時の発話との関連を検討した。その結果, 準備メモ記述では強いマイサイドバイアス傾向が確認される一方で, 討論時の発話は反対意見に対する応答として行われるため, マイサイドバイアス傾向が低減することが示された。すなわち, マイサイドバイアスは反論を想定できないために生起しており, 反論想定を促すことでその傾向は低減すると考えられる。そこで第二に, 児童の意見文産出活動において, マイサイドバイアスの克服(反論想定と, それに対する再反論)を促す目標提示を行い, さらに目標を達成するための方略提示と役割付与の効果を検証した。その結果, 目標提示に加え, 方略提示を行うことでマイサイドバイアスは低減されることが示された。また, 目標達成を義務化する役割付与は, 方略提示の効果を強化することが示された。第三に, マイサイドバイアスの克服において児童がつまずくポイントを解明するため, 低学年児童の意見文産出過程を微視的に捉える研究を実行した。その結果, 児童は持論と反対意見の両立場から意見文を産出できるが, それを一つの意見文として統合することに困難さを示すことが明らかになった。ただし, 反論する記述に線を引く視覚化支援や, 接続詞の機能を明確化する支援を行うことで, マイサイドバイアスは低減されることが示された。 以上の研究は, 児童期のアーギュメント産出活動におけるマイサイドバイアスの特徴を明らかにし, その克服方法について実践的な示唆を得た点で意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的の一つとしていた「アーギュメント・スキルを支える要因の学年差の検討」については, 現在準備段階であり来年度以降の実施を予定しているが, その他の研究は順調に実施された。また, データを取り終えたいくつかの研究については国際学会での発表や論文としての投稿を完了しており, すでに採択の評価を受けたものもある。以上のことから, 本研究の達成度を「②おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は, アーギュメント・スキルを支える要因について, マイサイドバイアスという観点から解明するための調査を実施していく。特に, マイサイドバイアスの生起メカニズムを明らかにするための調査を実施し, マイサイドバイアスが生起する原因の特定と, マイサイドバイアスを克服するためのより効果的な支援方法についての示唆を得る。
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