2013 Fiscal Year Annual Research Report
彩色材と和紙からなる紙質文化財における和紙の劣化機構
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13J40225
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Research Institution | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
Principal Investigator |
貴田 啓子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 和紙 / セルロース分子量 / GPC-MALS / 加速劣化 |
Research Abstract |
彩色材および和紙からなる紙質文化財について、よりよい保存方法(保存処置、修復、保存環境)が望まれている。本研究では、顔料が和紙の劣化に与える影響を明らかにし、1)劣化機構の解明、2)修復現場への適用を目的とする。 第1年度目は、上記1)について、研究計画の通り、各種加速劣化試料(3種の和紙、2種の金属イオン処理、3種の加速劣化)の半分を作製し、分析、評価の一部を行った。これらの結果のうち、Fe^<2+>を含む楮紙(那須楮、機械漉き)の湿熱および紫外線照射による劣化挙動をGPC-MALLS-蛍光ラベリング測定の結果より比較検討した。湿熱劣化と紫外線劣化では、いずれも紙のセルロースの分子量分布は形状変化を伴いながら低分子側にシフトした。分子量が同程度に劣化した2種の加速劣化試料において、紫外線劣化のほうが湿熱劣化よりも低分子領域が大きく広がった分布を示した。また、紫外線劣化試料では酸化反応により生成したカルボニル基が多いことが示された。鉄イオンおよび酸処理を施した楮紙試料では、分子量及び分子量分布の経時変化から、紫外線劣化より湿熱劣化では低PHおよびFeイオンの影響が大きいことが示された。2種の加速劣化による影響を比較すると、紫外線劣化した楮紙は、酸化反応が進行しやすく、湿熱劣化では、Feイオンおよび低pHが分子量低下に及ぼす影響が大きいことが示された。 一方、2)の修復現場への適用については、実際の室町時代の資料で、緑青焼けの現象がみられる絹本資料の調査を行う機会が得られ、修復工程に用いた吸取り紙の分析を行った。本紙、裏打ち紙、および修復過程で用いる吸取り紙について、元素分析を行った結果、これらの箇所では、肌裏紙、総裏紙、吸取り紙の全てから銅が検出され、本紙の顔料由来の銅の移動が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的を2つに分けているが、1)については、分析・評価が若干遅れているが、2)については、2年度目、3年度目に計画していたところを、受け入れ研究者の紹介により、実際の資料の分析の機会が得られたため、前倒しで進行し始めている。したがって、全体的には、順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
1年度目に引き続き、残りの加速劣化試料の作製と同様の評価を行っていく。問題点として、酸化反応の評価について、カルボキシル基の定量を行ってきたが、和紙においては、元来含まれているウロン酸(カルボキシル基を含む残基)をも検出してしまうため、酸化反応の評価が適切に行えないことが、これまでの結果からわかった。今後は、ウロン酸の定量結果の経時変化を加味した定量計算をし、評価し直すこととする。 修復現場への適用についても、引き続き、資料の調査を行っていくが、資料の処置工程のひとつに水洗浄があるが、劣化資料では水の浸透性が低下する問題があり、これに関連し、紙の結晶化度の測定を進めていく予定である。
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Research Products
(3 results)