2002 Fiscal Year Annual Research Report
明治初期における有田焼の技術的近代化及び磁器電信碍子の導入について
Project/Area Number |
14023213
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
ANDREW Cobbing 九州大学, 留学生センター, 教授 (40315148)
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Keywords | 有田焼 / 佐賀藩 / ワグネル / 香蘭社 / 電信碍子 / 精錬方 / 万国博覧会 / 西洋化学 |
Research Abstract |
本研究プロジェクトは日本の伝統工芸品の代表的な美術品として知られている有田焼を対象とする。その400年に亘る美的・技術的発展の経緯の中で,朝鮮・中国・ヨーロッパ人も重要な役割を果たしてきた。焼物戦争直後に朝鮮陶工によって築かれた創始期,明の解体に伴い中国陶工民が到来する17世紀半ば,オランダ東インド会社のヨーロッパ輸出貿易などの各時期において海外からの影響が目立つ。明治初期においても西洋技術による有田焼の近代化といった過程も見過ごせない。その技術改善によって「古伊万里」から「現代有田焼」への転換が見られ,同時期に深川栄左衛門が日本発の電信碍子生産に成功したことも近代日本の陶磁工業の発祥でもあったからである。今年度の研究プロジェクトでは幕末佐賀藩の技術背景から明治初期における有田焼の西洋技術導入までの過程をまとめて次の三つのテーマを中心にデータ収集と調査を行ってきた。(1)ドイツ人化学者ワグネルの活躍により導入されたコバルト染料などの導入,(2)ウィーン,パリやフィラデルフィアの万博などでの見学によって進められた窯の輸入及び工芸法の調整,(3)八代深川栄左衛門窯(香蘭社)での磁器電信碍子の開発(1)に関しては佐賀県有田町の各工房でのデータ収集によって染料の導入を検討してきた。攻防も数が多いためデータ収集は来年度に完成される見込みである。また,長崎経由で肥前国に入った新技術は有田からさらに全国へ普及される過程も判明しつつあるので石川県の再興久谷焼や三重県の万古焼など日本各地の陶芸法への影響についても調べている。来年度もこの課題に関する調査を進めていく予定である。(2)に関しては,今年度では万博の技術的影響を対象とする調査は今までなかったが,今年3月中のパリ,ウィーン滞在を含む海外訪問の際に現地資料の調査を行う予定である。(3)に関しては,有田町の香蘭社との相談に基づいて深川栄左衛門の電信碍子開発の実験を調べてきた。特にその関連技術を把握するために名古屋市にある碍子博物館及び明治時代の公文書を通して香蘭社と工部省電信寮との関りを調査している。深川等が開発した国産電信碍子の世界的な位置づけを検討するため,さらに十九世紀電気技術関係の文献を利用する必要があると思われる。 以上のデータ収集と調査によって,明治初期の有田焼の技術的近代化を一貫性のあるテーマとして本研究プロジェクトを進めてきた。特に西洋技術の導入といった過程の中で単に海外の知識を真似するのみならず有田焼の独特な条件や日本の風土に合わせて開発されたことが多い傾向が次第に見えてきたため,来年度も中心的な課題として調べる見込みである。今後,有田各工房の目録とデータ調査を深めることによってその様子をさらに明白にできることを期待する。また,電信碍子については国内の視点だけでなく19世紀半ばの世界的技術水準から有田で開発された電信碍子への再評価をさらに検討する必要がある。
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Research Products
(1 results)