2003 Fiscal Year Annual Research Report
章炳麟の哲学思想と日本明治30年代思潮との比較考察
Project/Area Number |
14651003
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
小林 武 京都産業大学, 文化学部, 教授 (20107121)
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Keywords | 章炳麟 / 斉物論釈 / 明治思潮 / 現象即実在論 / 懐疑論 / ショーペンハウエル |
Research Abstract |
本年度は、以下の3点を行った。 1.『〓書』に引用された日本書籍の出典の精査をふまえて、章炳麟のナショナリズムの陰影を明治思潮と関連づけながら考察し、研究報告した(11.「研究発表」参照)。 2.章炳麟は仏教と老荘思想とを基礎にした哲学を展開させたが、その『民報』期諸論文と『斉物論釈』において、「原型観念」という概念を唯識学の阿頼耶識と重ねて理解した。これらの概念は、彼がヨーロッパ近代哲学と批判的に対決する際、大きな役割を果たしたが、これが姉崎正治の著書に由来すること、および『〓書』から『民報』期に至っても姉崎と思想的関係があることを明らかにし(11.「研究発表」参照)、また『〓書』から『斉物論釈』に至る章炳麟の思想的変遷は、その内的契機が仏教のみならず、当時の明治思潮で流行していた懐疑論・厭世観と深い関係にあることを探った。 3.章炳麟の『民報』期諸論文や『斉物論釈』に見える哲学思想は、懐疑論的傾向をもつ。なかでも、ヨーロッパ近代哲学との関係では、カント、ショーペンハウエル、ヒュームなどが、インド思想との関係では古代宗教思想が重要である。宗教学者姉崎正治は、ショーペンハウエル哲学やインド宗教思想の上で章炳麟との思想的関係が深いのだが、姉崎のみならず、当時、哲学の主流であった井上哲次郎らの現象即実在論との関連も無視できない。井上とその周辺の哲学思想、明治におけるドイツ観念論の受容、および明治期における懐疑論思想(ショーペンハウエル、E.vonハルトマン、高山林次郎など)を、章炳麟との関係を念頭におきつつ検討した。
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Research Products
(2 results)