2002 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本の初等教育における民俗文化と学校文化の相克と連関
Project/Area Number |
14710198
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Research Institution | Musashi Institute of Technology |
Principal Investigator |
佐藤 英二 武蔵工業大学, 工学部, 講師 (20339534)
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Keywords | 算術教育 / 生活 / 各科教授法 |
Research Abstract |
本研究は、数と量に関して近世以来受け継がれてきた慣習と近代学校での初等算術教育との関係を考察することを目標としている。研究期間の初年度にあたる平成14年度は、2つの方向からこの問題にアプローチした。 第一に、第一次大戦後の算術教育をリードした清水甚吾(奈良女子高等師範学校附属小学校訓導)を取り上げ、『尋三四算術教育の新系統と指導の実際』(1932年)を中心に、子どもの日常的慣習への気づきと彼の教育思想の関係を考察した。清水は、教室の中と外における子どもの言葉のずれに着眼し、教室外における子どもの日常的な数量的生活を数学的な系統性の点から再構成することを重視していた。清水や彼に影響を与えた木下竹次(奈良女子高等師範学校教授)の思想は、大正新教育に付与されがちな反知性主義とは無縁であり、むしろ理性的な性格を強く持っていた。この第一のアプローチは、西欧化の教育と日常的な数学文化との連関が焦点となった大正新教育に焦点を当てるものであり、次年度は、佐藤武(成城小学校訓導)ら他の算術教育指導者の検討に広げて検討する予定。 第二に、師範学校の最終学年での教育実習の手引き書として用いられた「各科教授法」の教科書を参照し、国定教科書やその教師用書での指導法とのずれを考察した。明治期から大正、昭和期に至る過程で、新たな心理学説の紹介に伴って叙述内容が変更された例が確認された。しかし、教師と児童のやりとりに関する模範例は、いずれも教師が問い児童がそれに一つ一つ答えるというものであり、児童が自由に作業を進め数学的概念を構成する授業など、清水甚吾らによって推進された事例は見られなかった。第二のアプローチに関しては、次年度は「各科教授法」のテキストを著者の学歴や思想に応じて系譜分けし、その特徴を考察する予定。
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