2003 Fiscal Year Annual Research Report
大都市におけるカトリック教会と市行政―19世紀のパリの事例―
Project/Area Number |
14710263
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
長井 伸仁 徳島大学, 総合科学部, 助教授 (10322190)
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Keywords | 都市 / フランス / キリスト教 / 教区 / パリ / 近代 |
Research Abstract |
本研究は、大規模な社会変動を経験していた19世紀のパリにおいて、カトリック教会がそれにどのように対応したのかを、市行政との関連に注目しつつ明らかにするものである。本年度は、急速に都市化が進展する市内周縁部および郊外におけるカトリック教会の認識と活動とを主に研究した。具体的には、歴史学、社会学、宗教社会学などの関連分野の研究書をもとに研究動向や周辺的事象を調査し、その上で、収集済みの資料を利用して研究をおこなった。研究成果の中間報告を、「都市化とカトリシズム」と題して、大阪大学イギリス史研究会で6月8日におこなった。本年度の研究成果の概要は、以下の通りである。 パリでは、19世紀前半に、都市化への対応として周縁部で教区の増設が試みられた。だが、司教区としての支援の欠如と既存の教区からの抵抗のため、増設は困難を極めた。他方、増設にあたり考慮されたのは人口や聖堂までの距離であり、社会集団を考慮に入れるべきだという意見は全面には出なかった。あたかも、都市が社会的に均質な空間だという認識が優越していたかのように思える。それ以上に、教区については増設以外に目立った対策がとられなかったし、教区という枠組みが都市社会に適しているかどうかも問われなかった。 20世紀、政教分離法の成立とともに、「枢機卿の建設運動」とよばれる聖堂建設事業がはじまった。事業は、聖堂建設にはある程度は有効だったが、教会の活動を刷新するにはいたらなかった。現在では、交通手段の発達と都市社会の複雑化・多様化とにより、教区という枠組みが形骸化し、信者たちの活動は教区を超え、また目的別におこなわれるようになっている。この点での教会の対応は迅速ではなかったと言うべきであろう。
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