Research Abstract |
平成14年度は,ADR基本法の立法に関する研究を進める上での基礎的作業として,下記のような調査・研究報告を行なった。なおこれらの作業のいずれについても,アメリカへの研究・調査旅行で得られた資料が重要な役割を果たしたことを付言する。 1.倒産関係ADRシステムのあり方についての研究:近時の消費者破産の急増を前提として,単なる清算手続としての倒産処理に限らず,破産者の経済的・社会的再生や破産予防といった法政策の必要性が強まっており,そのような手続において,ADRを用いたより個別的な対応や再建計画の実効性の強化,さらには他の清算型手続との有機的な連携をシステムとして備えるべきことが考えられる。そこで,本年度は,倒産ADRという新しい概念のもとで,現在の特定調停やクレジット・カウンセリングの実務をも踏まえながら,ADRの有用性と限界を分析し,上記のようなシステム構築のための予備的考察を行なった。この結果は,裁判所との研究会で報告・検討を加えたほか,他の研究者・実務家との共同研究として,法社会学会シンポジウムで報告した。 2.ADR基本法のあり方についての研究:司法制度改革審議会の意見書を享けた検討会でADR基本法の審議が始まっているが,これと平行して開催されている私的な研究会に参加し,同法制定においてありうる基礎的な問題(定義,ADRの内容規制の適否,手続主宰者資格など)について共同研究を行なった。その成果は,「自由と正義」掲載の論文などとして著した。 3.司法書士のADR運営のあり方についての研究:司法書士独自の立場・性格に基づいたADRへの参加の仕方(制度内容,手続主宰者としてのあり方,代理人としてのあり方)について,司法書士会からのヒアリングや文献研究などに基づいて調査・検討してきた。同一テーマで日本司法書士連合会からの委託を受けたこともあり,調査などは便宜を図っていただいた。その成果は,日司連主催のシンポジウムにおいて,パネリストとして報告した。また,より広範な視点から複数業種の専門家が協力してADRに関わる場合(MDP)の意義や問題点についても検討し,専門職団体協議会(福岡)において報告した。 4.民事調停のあり方についての研究:日本のADRにおける最大のプレゼンスを誇るのは裁判所における民事・家事調停であり,そのあり方は大きな影響力をもつため,その実務分析と問題点の析出を行った。その成果は,判例時報などに掲載の講演録として著した。
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