Research Abstract |
IT野にはヒトやサルの顔認識ニューロンが存在し,これは次のような挙動をすることが生理学者によって発見された。まずサルに,複数のヒトやサルの顔を学習させる。続いて,このサルに既に学習したAさんの顔を見せる。すると最初に,ヒトをコードしている全ニューロンが発火し,その後,Aさんの顔をコードしているニューロンだけが発火を持続し,それ以外は発火しなくなる。このとき,サルをコードしているニューロンの発火は殆ど見られない。つまり,まず物体の大まかな認識(ヒトかサルかのグループ認識)が行われ,続いて,それが誰なのかという詳細な認識が時間を追って行われるということが分かってきたのである。 本研究者は,この想起ダイナミクスが連想記憶モデルを用いて説明できるのではないかと考えた。14年度には,サルが学習した顔の特徴を取り入れた学習パターンを作成し,これを連想記憶モデルに学習させて想起安定性を統計力学によって解析した。本年度は,ダイナミクスについて調べた。その結果,記憶パターンそのものを見せた場合は,それ自体が連想記憶モデルの平衡解であるため状態変化は起きないが,記憶パターンに雑音を入れた状態から想起を開始した場合は,一度,同類の記憶パターン群のOR混合状態(生理学実験でいうところの全ニューロンの発火に相当な状態)に近づき,その後,記憶パターンに収束することが分かった。雑音の量が多いほど,OR混合状態への近づき方は大きいことも分かった。また,雑音の量がある境界値を越すと,記憶パターンへは収束せず,完全なOR混合状態に入ることが分かった。この性質に基づき,これまでの生理学的研究の方法にメスを入れ,連想記憶モデルと類似の構造がIT野に存在するか調べるための新たな生理学実験法を提案した。本研究を通して,IT野と同じダイナミクスが得られたが,連想記憶モデルをこれ以外の方法で改良した場合でも,同じダイナミクスが出る可能性が考えられる。次年度は,本年度以外のモデルのダイナミクスも調べることで,生理学と類似のダイナミクスが現れる本質のメカニズムが何なのかについて,詳細に調べる計画である。
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