2014 Fiscal Year Annual Research Report
農畜産業遺産の動態保存にみる地域活性化と景観形成の国際的共通性
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14J00335
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大島 卓 筑波大学, 大学院人間総合科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 岩瀬牧場 / 近代化産業遺産 / 文化的景観 / 福島県 / 景観保全 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.牧場を含む土地利用変遷の実態調査:現在、福島県岩瀬牧場の歴史的経緯および空間的特徴等の学術的価値を活用した実践活動を展開しているが、牧場の出自を鑑みると牧場単体の評価だけに留まらず、より広域的な視点が必要である。そこで福島県内で明治初期から実施されてきた開拓事業の歴史的展開を通して、岩瀬牧場を含む県中南周辺地域の土地利用変遷を解明していく。岩瀬牧場所蔵の地図文献史料、開拓事業関連の行政計画書、地図資料等を用いて、東北地方における開拓事業をオンサイトで実体化したものとして評価するという観点のもと、岩瀬牧場を中心とした周辺原野の土地利用変遷を明らかにした。 2.景観の保全手法の検討:福島県岩瀬牧場の歴史的意義に関する学術的解明と並行して取組んできた実践活動から、「牧場の課題」や「保全に向けた基本方針」を整理し、牧場内資源保全活用方策として、1)マスタープランの検討、2)建築資源の保全と活用、3)維持管理施設の集約、4)トロッコレールの復元と活用、5)回遊園路の整備、6)フォードソンF型トラクターの修理と活用、7)緑資源の調査と活用、8)花修景のこころみとイベント企画、9)食のこころみ、10)牧場動物との触合い体験の充実、に分類し環境デザインの手法として提示した。 3.岩瀬牧場内に現存する環境資源の実態調査の実施:景観保全に向けた牧場内資源のデータベース構築の一環として、牧場内および敷地周辺に植栽されている樹木について、樹種判別・樹勢診断および植栽位置調査を行った。また調査結果をふまえ樹木カルテ・主要樹木位置図を作成した。 以上の研究成果を踏まえ、学位論文「福島県岩瀬牧場の近代化産業遺産としての価値と保全に関する研究」を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果として、1)福島県岩瀬牧場に関連する東北開拓の歴史的経緯と土地利用変遷の解明、2)牧場の課題や保全に向けた基本方針の整理と、牧場内資源保全方策の提示、の2本を査読付き論文として発表した。 上記研究成果を踏まえて、国内で見過ごされていた牧場施設という近代化産業遺産を文化的景観として再評価し、存在意義を明らかにした。加えて岩瀬牧場と同様に、他の未評価な近代化産業遺産を再発見し保全する方法論として、調査手順、遺産価値の判断根拠および保全方策の考え方について提示した。 以上の研究成果から本研究課題はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
近代化産業遺産としての評価プロセスの妥当性を検討していくためには、未評価の潜在的景観資源の「創出」へとつながる、遺産概念の視野を広げていく事が検討課題の1つとして考えられる。現在の文化的景観の選定や評価は、地域の潜在的環境資源の固有性を評価する枠組みや選定手法をもって行われているが、農畜産業などの生産技術にみられる「景観形成の国際的共通性」という視座に立った文化的景観生成プロセスの可能性については論じられていない。 今後の研究では農畜産業の景観形成要因やデザインの規範には、構造物や産業機械類等の「モノ」にみられる類似性だけでなく、生産技術のランドスケープ化に伴う、国や文化を越えた類似性が存在するという仮説のもと、地域に根ざした近代化産業遺産の背景にある生産・設計技術等に起因する「共通性」、普遍的な景観形成の規範を、農畜景観の成立要因等を切り口にした研究から明らかにしていく。
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Research Products
(3 results)