2014 Fiscal Year Annual Research Report
大規模災害とマスメディア報道-東日本大震災・福島原発事故を中心に-
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14J01126
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
矢内 真理子 同志社大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 社会学 / メディア学 / 東日本大震災 / ジャーナリズム / 福島第一原子力発電所事故 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、東日本大震災における情報の発信者であるマスメディアと、受け手である市民の双方の齟齬はどこから生まれるのか、なぜ市民の声にこたえる報道ができなかったのかについて考察する。そして今後の災害報道において、どのような取材・報道をすべきなのかを提言することが目的である。具体的に避難行動において重要な局面(退避命令や原発1~4号機の爆発など)の報道各社の違いを知るために、当時の新聞・テレビ・ラジオの内容を分析対象とする。映像や写真の使われ方、アナウンサーや専門家の発言の表現や身振り手振り、顔の表情、画面に使われる字幕の表現などに着目し内容分析を行う。さらに取材から放送、紙面に掲載されるまでにどんな議論が社内で行われたのか、報道の基準やルール、プロセスについて把握する。 26年度は、第2回アジア未来会議(2014年8月22日~24日、インドネシア、ウダヤナ大学、主催:渥美国際交流財団)で「福島第一原発事故の原子炉爆発映像から見るジャーナリズムのありかた」をテーマに発表をした。この発表で優秀発表賞を受賞した。この発表は、2011年3月12日午後3時36分頃に爆発した福島第一原子力発電所1号機の、各テレビ局の初報を研究範囲に、特に爆発映像の使われ方と、字幕スーパー・テロップの使い方に着目し、分析を行った。得られた知見は、第一に、唯一、日本テレビの系列局が撮影に成功した1号機爆発の瞬間の映像を、他局はまったく用いなかったことから、テレビ局間の競争意識が見られること、第二に、爆発について、字幕スーパーやテロップでは「爆発音」と表現し、断定を避けたことから、当局からの発表を待つ姿勢が見られたことの2点が挙げられる。そこから、爆発の瞬間の映像を広く市民が知る機会が失われ、市民が必要とする情報を収集し報じることなどのジャーナリズムの機能から逸脱した事例であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、第2回アジア未来会議(2014年8月22日~24日、インドネシア、ウダヤナ大学、主催:渥美国際交流財団)で「福島第一原発事故の原子炉爆発映像から見るジャーナリズムのありかた」をテーマに発表をした。この発表で優秀発表賞を受賞した。また、2014年度京都大学南京大学社会学人類学若手ワークショップ(2014年8月13日、京都大学)で自身の博士論文の概要について発表した。中国の南京大学の若手研究者らと社会学・人類学の観点から交流を行った。 そして、扱うテーマ上、事故がまだ収束しておらず現在進行形であることもあり、同じ災害報道の研究分野での最新の研究状況を知り、自身の研究内容(先行研究の部分)に反映するために、各種シンポジウム・講演会に積極的に参加した。また、阪神・淡路大震災などの資料を持つ神戸市の「人と防災未来センター」や、東京の国立国会図書館に通い、資料収集を行った。 今年度はテレビ報道の映像の内容分析を行うことができたため、今年度も引き続き研究に打ち込みたい。映像については、より多角的な視点での分析が可能ではないかと考えている。年々震災報道の量は減り続け、人々の意識からも震災の記憶が薄れつつあるが、被災者にとってはなお苦しい状況下に置かれていることに変わりはなく、本研究が人々に役立てられることを願う。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、昨年度の第2回アジア未来会議での発表「福島第一原発事故の原子炉爆発映像から見るジャーナリズムのありかた」をさらに発展させ、論文として発表することを目指す。研究範囲は、これまでの2011年3月12日午後3時36分頃に爆発した福島原発1号機の、各テレビ局の初報だけでなく、さらに範囲を広げて3月18日までの1週間の放送を対象とする。 また、ジャーナリズムの視点だけでなく、社会福祉の視点からも災害報道と市民の関係性について考察したい。「市民に役立てられる報道」というジャーナリズムの役割・機能はジャーナリズム論からのものだが、社会福祉の視点からも、マスメディアが市民生活に密接にかかわるインフラとして、企業利益だけでなく社会の公益性に基づく報道が必要であることを論じたい。 上記の論文執筆だけでなく、博士論文全体の完成を目指す。現在の博士論文の章立てには、新聞、テレビ、ラジオの3つのメディアについて扱う予定としている。この考えについては引き続き、3つのメディアがそれぞれどのように互いが報道できない分野をカバーしていたかを考察する。特に、ラジオは95年の阪神大震災以降、県域のAM放送だけでなく、一市町村を可聴エリアとするコミュニティラジオ局の発展もあり、95年から大きく進歩している部分に注目する。そして、マスメディアの動きだけでなく、政府・行政、東京電力などの当時の動きについても引き続き資料収集を行い、マスメディアとの関係性を把握する上で役立てたい。
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Research Products
(1 results)