2014 Fiscal Year Annual Research Report
三角格子を有する混合原子価化合物における電荷フラストレーションの効果の解明
Project/Area Number |
14J01400
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小林 慎太郎 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 混合原子価化合物 / 三角格子 / 電荷フラストレーション / 電荷秩序 / 新奇物性開拓 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度に申請者は、電荷のフラストレーションの効果の検証に用いるための、混合原子価遷移金属酸化物を純良に合成するシステムの開発を行った。その結果、固体電解質のZrO2を酸素濃度測定器および酸素ポンプとして使用した酸素分圧制御炉の作成に成功し、種々の混合原子価の遷移金属酸化物の合成を行うことができた。 作成した酸素分圧制御炉の性能のテストを行うために、2元型鉄酸化物の合成を行い、焼成時の酸素分圧を酸素ポンプにより連続的に調整することで、Fe2O3、Fe3O4、FeO、Feの4つを作り分けることができた。特に、焼成中の酸素濃度をモニターすることで、平衡反応の進行度を合成進行中に知ることが可能になった。その他にも、バナジウム酸化物などの合成も成功した。さらにこの手法で合成可能な物質群を増やすため、大気中で不安定な試料を合成する新しいシステムの開発に着手している。 また、電荷フラストレーションの効果を検証するためのモデル物質として、2.5価の鉄が三角格子を形成したNaFe2O3の合成を行った。試料合成を酸素分圧制御炉を用いて行ったが、この試料が大気中で不安定なため、純良試料は得られていない。今後、上述した新しい酸素分圧制御炉を用いて合成を行うことで純良試料が得られると考えられる。一方、封管による固相反応法を用いることで、わずかに試料依存がみられるものの純良試料を得ることに成功した。 NaFe2O3の物性を詳細に調べ、電荷秩序を示唆する結果を得た。磁化率測定において2段階の異常を観測し、これらのうち高温の異常が構造変化と関係していることが明らかになった。この異常は、電気抵抗率の急激な増大を伴うため、電荷秩序が起きていると考えられる。ただし、物性に試料依存がみられ、これは酸素欠損の影響だと推定している。今後は酸素欠損の影響を明らかにするため、酸素分圧制御炉を用いて種々の酸素分圧でNaFe2O3を合成し、その物性を詳細に調べる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、ZrO2センサーを搭載した酸素分圧制御炉の作成に成功し、様々な遷移金属酸化物を合成することができた。加えて、試料を急冷により取り出す機構の作成に成功した。さらに、大気中で不安定な試料を取扱うためのシステムの開発に着手し、その設計と炉の大部分の部品の作成を終えている。したがって、酸素分圧制御炉の装置開発は当初の計画以上に進展したと評価している。 また、NaFe2O3の磁化率、電気抵抗率、構造変化などの巨視的な物性の測定および予備的なNMR測定を行うことができた。一方で、試料依存の原因が明確になっていない。この試料依存の原因は、試料にわずかに存在する酸素欠損によるものだと推定される。そこで、酸素分圧制御炉によりさまざまな酸素分圧でNaFe2O3を合成し、その物性測定を行うことで、酸素欠損と物性の関係性を系統的に調べる予定である。 これらの得られた成果の一部を国内学会で発表した。また、今後国際学会で発表し、論文発表という形でまとめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
最初に、大気中で不安定な混合原子価の遷移金属酸化物を合成するために開発した新しい酸素分圧制御炉を本格的に稼働させる。この炉の性能を調べるため、これまでと同様にテスト物質を用いた合成を行う。 その後、新しい酸素分圧制御炉を用いて、大気中で不安定な試料であるNaFe2O3の合成を試みる。特にこの化合物においては試料依存がみられており、それは酸素欠損の影響であると推定される。焼成時の酸素分圧を変化させることで、このような酸素欠損を制御することが可能になると考えられる。そこで、酸素分圧制御炉を用いて、様々な酸素分圧においてNaFe2O3の合成を行い、物性を詳細に調べることで、酸素欠損の影響を明らかにする。また、このようにして得られた純良試料を用いて、NaFe2O3のNMR測定を行い、秩序状態の微視的な解明を目指す。 さらに、酸素分圧制御炉を用いて、混合原子価の遷移金属元素をもつ酸化物の物質探索を進める予定である。現在は鉄酸化物を中心に研究を展開しているが、それに加えてチタン、バナジウム等の他の遷移金属元素をもつ混合原子価酸化物の合成を試みる予定である。 このようにして得られた結果を、学会発表、論文発表としてまとめる予定である。
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Research Products
(3 results)