2014 Fiscal Year Annual Research Report
科学主義の時代におけるオストヴァルトの「エネルゲーティク」に関する研究
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14J02372
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
稲葉 肇 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 科学史 / 思想史 / エネルゲーティク / オストヴァルト / ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
オストヴァルトの「エネルゲーティク」について,本年度は残念ながら史料収集と読解の段階を脱しきれなかったが,いくつかの知見をすでに得ている.オストヴァルトは1890年頃から「エネルゲーティク」を展開させているが,それに対しては初期から厳しい反論があった.1902年の『自然哲学講義』で彼は本格的に,哲学的体系としての「エネルゲーティク」を展開させ,その後も数々の著作を発表し,ドイツ一元論同盟にも参加した.本年度は,オストヴァルトの著作に対する書評を網羅的に検討し,反響の大きさと,「エネルゲーティク」に対する評価を分析した.全体としては,オストヴァルトに好意的な書評は,概して「エネルゲーティク」が主張する一般性を称揚し,批判的な書評はその哲学的な議論の粗雑さを指摘する傾向があったと言える.圧倒的に注目されているのは『エネルゲーティク命法』(1912年)であり,この本に対しては40件もの書評が書かれた.「エネルギーを無駄にせず,有効に活用せよ」という主張そのものは好意的に紹介される場合が多かったが,自然科学的な結果を倫理的原理にすることは正当化できない,という,今日で言う自然主義的誤謬の指摘にあたる鋭い批判もあったことには留意すべきである.さらに,この著作は,「エネルゲーティク命法」に関する統一的な記述ではなく,五つのテーマを合わせた論集のようなものであり,統一性を欠く点が厳しく批判され,「居酒屋談義に過ぎない」などという厳しい批判も見られた.『文化科学のエネルゲーティク的基礎』(1909年)に対する評価も注目すべきである.というのは,社会学の歴史では名高いヴェーバーが徹底的な批判を行っているからであり,その批判的態度は,オストヴァルトが歴史科学に対して「法外に高慢な態度」を示しているという一文においてだけでも十分に読み取ることができる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,1900年から1910年分までの資料収集とその読解の段階であった.読解作業としては,具体的には,オストヴァルト自身の著作と,彼の「エネルゲーティク」に対する反応の要約と分析を中心に据えた.また,ベルリン・ブランデンブルク科学アカデミー文書館に所蔵されている書簡類の調査も行うとした.これらの目的のため,当初の予定通り,マックス・プランク科学史研究所(ベルリン)に滞在することで,公刊された書籍や論文をはじめ,日本では収集が困難であろう史料の入手はかなり進んでいる.公刊されたものについては,当初の予想を上回る量の史料が得られた.その読解作業についても,書評についてはおおむね完了している.書簡などの手稿資料は,きわめて悪筆なものがあり,またドイツ筆記体の読解に関する報告者の経験不足などから,残念ながら捗っているとは言えない.滞在先では,すでに研究テーマについて数回ほど非公式に議論をしており,有望な観点を得るとともに,訪問すべき施設および研究者についても検討を重ねている.手稿史料の読解作業に遅れが生じていることは否めないが,公刊史料の予想以上の多さを考慮するなど,総合的に判断すれば,研究計画は順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
ドイツでの史料収集が予想以上の成果を挙げたため,マックス・プランク科学史研究所(ベルリン)での在外研究を延長し,いっそうの史料収集を進める.当初の予定していた史料に加えて,当時の新聞においても(文化欄などで)オストヴァルトの思想が論評されることがあったことが判明したため,これについても収集を進める.さらに,滞在中に,オストヴァルトの思想に造詣の深い欧州の科学史家・思想史家とコンタクトを取り,研究計画を洗練させるとともに,研究集会の企画を行うなど,成果の発表段階へと移る.史料の読解作業においては,引き続き,オストヴァルトの思想に対する反応を,背景となるディシプリンごとに整理し,物理学・化学分野と哲学・倫理学分野からの反応を検討する.これにより,特にエネルギー概念の理解の違いが明らかになるだろうと期待される.手稿史料については,ドイツ筆記体の読解に習熟するとともに,文書館にスキャニングを依頼してSMART-GSを用いることで,解読作業の促進を行う.帰国後は,受入教員とも協力しながら,まずは「物理学・化学,哲学・倫理学」分野における「エネルゲーティク」の受容・批判の過程を取り纏め,論文などの形で成果を発表したい.
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Research Products
(3 results)