2014 Fiscal Year Annual Research Report
合成開口レーダーによる山岳氷河の時空間的変動の検出と流動モデルの構築
Project/Area Number |
14J02501
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
安田 貴俊 北海道大学, 理学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 合成開口レーダー / 氷河流動 / 氷河サージ / 西クンルン山脈 |
Outline of Annual Research Achievements |
採用初年度(平成26年度)において,国内学会口頭発表を1回,国際学会ポスター発表を2回行った.博士課程3年間の成果として2015年3月,北海道大学大学院理学院において理学博士の学位を取得した.その研究成果は現在(2015年3月)JGR-ESにおいて現在査読中である. 本研究ではチベット高原北西部に位置する西クンルン山脈の山岳氷河の時間・空間的流動速度変化の検出を行い,特に非定常的な現象である氷河サージに焦点を当てて研究を行ってきた.氷河サージを引き起こす「サージ型氷河」は氷厚や末端位置の変化が必ずしも気候変動に対応せず,通常の氷河とは異なり地球温暖化などの気候変動の指標として相応しくないことが指摘されている.しかし観測の難しさから,いまだ未発見のサージ型氷河も存在する.また氷河サージの発生・流動メカニズムは観測の少なさから現在も未解決のままである. これまでの研究で1992年からの衛星SARデータと1972年からのLandsat光学画像を使用し,これまで知られていなかった西クンルン山脈におけるサージ型氷河の分布・特徴を明らかにした.また2000年代から継続中の氷河サージの流動変化のプロファイルから経年的な流動速度の変化に加え,それまで知られていなかった季節的な変動を捉えた.流動速度の季節的な変動は表面からの融解水の流入がサージによる流動のプロセスに寄与していることを示唆している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
博士課程3年間の研究成果として理学博士の学位を取得し,その研究内容を学術雑誌(現在査読中)へ投稿した.衛星搭載型合成開口レーダー(SAR)のデータに基づく,山岳氷河の時間・空間的流動速度の変化から,寒冷型の氷河サージのメカニズムへの新しい知見を得た.このタイプの氷河サージはスヴァルバードなど極域の環境での発生が報告されている.そのため表面融解水の流入が氷河流動へ寄与することはなく,氷厚増加による底面融解が氷河サージの発生ならび維持メカニズムと考えられてきた.しかし,本研究の結果から,サージが進行中の氷河において経年的な流速変化に加え,明瞭な季節変動を検出した.これは季節的な融解により表面からの水の供与が底面の流動へ影響をもたらしていることを示唆している.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は,継続的な観測,新たな知見に伴うモデルの構築,対象地域の拡大である. 2014年から新しく運用が開始された衛星SARであるPALSAR2(JAXA)ならびSentinel-1(ESA)のデータを使用し,西クンルン山脈における氷河サージ流動の継続的な観測とそのメカニズムの解明を目指す.特に雪氷へ大きな浸透深度を持ち,長期間コヒーレンスが維持されるL-bandのPALSAR2データは流動速度の解析において重要となる. 新しく得られた知見を基に,氷河サージの発生ならび維持メカニズムの解明を目指す.これまでは「氷体の流動」,「圧力融解」と「氷河表面・底面での境界条件」を考慮し,モデルの構築を目指してきた.しかしこれまでの研究結果から,それらの条件に加え「表面からの融解水の流入」と「流出経路の変化」の考慮が必要となった.そのためサージのメカニズムの解明のため,氷体・熱・水の要素を組み合わせたモデルの構築を試みる. チベット高原周辺域に存在する他の山岳氷河の流動の解析を行い,経年的な変化の有無と気候変動・地域的な要因の調査を行う.また可能であれば現地観測データ,衛星観測データの比較,検証から時間・空間的な物理プロセスの改善を目指す.
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Research Products
(3 results)