2014 Fiscal Year Annual Research Report
温度応答型相分離のダイナミクスを予測する新規モデルの構築
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14J02533
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
多田 貴則 北海道大学, 総合化学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 温度応答性高分子 / 立体規則性 / レーザー温度ジャンプ法 / 単一分子蛍光イメージング法 / 相分離ダイナミクス / 溶液構造 / ステレオブロック |
Outline of Annual Research Achievements |
1.シンジオタクチックリッチPNIPAM(s-PNIPAM)の相分離ダイナミクス s-PNIPAMは相分離を誘起するための活性化エネルギーが必要であることが判明した。色素増感レーザー温度ジャンプ法を用いてs-PNIPAMの相分離速度を計測したところ、ある濃度を境に相分離速度が著しく異なる値を示すことを明らかになった。つまり、低濃度においてはs-PNIPAMはアタクチックPNIPAM(a-PNIPAM)と同程度の100 ~200 msの相分離時定数を示すが、臨界濃度(Ccp = 1.5 wt%)以上になるとa-PNIPAMよりも10倍も速い10 ms程度で相分離することがわかった。この加速メカニズムを解明するために動的光散乱法により粒径分布を調べたところ、高分子同士が重なり合う濃度とCcpが一致することがわかった。これまでに得られている赤外分光法、熱量測定の結果と合わせ、s-PNIPAMは相転移して収縮する際に分子内水素結合を形成しやすく、そのため疎水性が高くなり、高分子の拡散をほとんど経ずに凝集するような濃度においては相分離速度が速いというメカニズムを構築した。 本成果は、高分子の化学構造を変えなくても立体規則性を変えるだけで、温度応答挙動の根幹ともいえる応答速度を制御することができることを示すものであり、新たなスマートマテリアルの創生に向けた重要な設計指針にもなるため大きな意義がある。
2.ステレオブロックPNIPAMの合成 2連子比が同程度でその配列が異なるアタクチック‐イソタクチックリッチステレオブロックPNIPAMを合成したが、アタクチックブロックの鎖長に対してイソタクチックブロックの鎖長が短すぎたため、これらの相分離速度はアタクチックPNIPAMと同程度であった。今後、反応時間と【モノマー】/【RAFT剤】を調節することでよりイソタクチックブロックの鎖長比が大きいPNIPAMを合成して、2連子の配列が相分離速度に及ぼす影響を検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、相分離ダイナミクスを支配する因子を広く徹底的に調べ、種々の温度応答性高分子に対して、分子量・濃度・立体規則性などの基本的なパラメータから相分離速度を予測できるモデルを構築することである。これまでの研究により、分子量・濃度が相分離ダイナミクスに及ぼす影響を解明し、動的光散乱法と相分離ダイナミクスの定量的解析により、これらの挙動を高分子鎖の拡散と鎖の間の絡み合いによって解釈する拡散律速凝集モデルを構築した。 また、立体規則性が相分離ダイナミクスに及ぼす影響に関しても、メソ/ラセモの2連子比率を系統的に制御したPNIPAMの相分離速度の計測を完了している。また、単分子蛍光イメージング法を導入することで、2連子比率が相分離速度に影響を及ぼすメカニズムを解明した。 以上の研究は、当初の計画通りに進んだものであるため、順調に進展しているといえる。 ここで、立体規則性の効果を本質的に理解するためには、2連子の比率だけでなく、その配列の効果も検討する必要がある。そこで2連子比が同程度でその配列が異なるアタクチック‐イソタクチックリッチステレオブロックPNIPAMを合成したが、求めていた性質を有するPNIPAMを得ることはできなかった。この点は計画から遅れている。今後、反応時間と【モノマー】/【RAFT剤】を調節することでよりイソタクチックブロックの鎖長比が大きいPNIPAMを合成して、2連子の配列が相分離速度に及ぼす影響を検証する。
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Strategy for Future Research Activity |
求める分子量を有するアタクチック‐イソタクチックリッチステレオブロックPNIPAMを合成するために、反応時間と【モノマー】/【RAFT剤】の最適化を行う。合成した試料の水溶液系での相分離速度を、レーザー温度ジャンプ光計測システムを用いて計測する。得られた相分離速度を 比率が同じで分布が異なる試料の間で比較する。結果をまとめて2連子の比率、分布と相分離速度の相関関係を明らかにする。 また、現有の顕微分光装置の検出系に高感度CCDカメラを組み込む。そして、照明系を準全反射照明に改変することで、バックグラウンドからのノイズを抑え、溶液中の蛍光分子を観測できるようにする。合成した試料の水溶液中にごく微量添加した蛍光プローブ分子(蛍光ラベルPNIPAM)の拡散挙動を、上記のとおり開発した装置を用いて単一分子レベルで評価することで、水溶液のミクロな溶液構造を解析する。これにより、2連子の配列が相分離メカニズムに及ぼす影響を明らかにする。 さらに、既に構築してあるレーザー捕捉顕微分光システムを用いて、相分離前後の高分子集合体中の高分子構造をより詳細に評価する。レーザーの焦点位置に強い輻射圧を発生させることで、屈折率の大きい高分子集合体ドメインのみが選択的に焦点位置に捕捉される。このように捕集された高分子ドメインを共焦点光学系で分光(主にラマン散乱)計測する。これにより、相分離前後の集合体中の高分子構造や水素結合の程度、含水率(高分子濃度)など、構造に関する貴重な知見を得ることができる。 以上の研究内容により得られる相分離速度の立体規則性依存性に関する知見と、これまでに得られている濃度、分子量依存性に関する知見を整理し、相分離速度を濃度・分子量・立体規則性から予測できるモデルを構築する。
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Research Products
(7 results)