2015 Fiscal Year Annual Research Report
日本中世前期における訴訟の作法の交流と変容--訴訟主宰機関を結節点とみて--
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14J02678
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
黒瀬 にな 東北大学, 大学院法学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 法制史 / 中世史 / 日本史 / 古文書学 / 訴訟 / 堺相論 / 本所 / 手続 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、訴訟に関わる多様な行為者それぞれの主体性および相互の連関について、『禅定寺文書』を中心に分析した。 1、まず、前年度に実施した史料調査のデータを整理するとともに、訴訟文書以外の古文書や造営修理記録を精査した。それにより寺領荘園の人的編成を把握した上で、禅定寺および寺領構成員が訴訟において果たした役割を検討した。一般に、在地紛争における対外交渉や内部の意思集約にあたっては、沙汰人などと呼ばれる上層住人・荘官層の働きが重要とされるが、訴訟においては村落の論理と荘園制の論理が交錯するため、中心的役割を果たす人物と荘官職との関係等について慎重な検討が必要である。本年度の作業で、禅定寺領の場合もこの点に検討の余地があることを確認した。引き続き分析を進めているところである。 2、同文書群にみえる14世紀初頭の紛争事例につき、訴訟関係者・関係機関どうしの連関の様相を観察し、裁判所のもつ当事者性や多元性につき考察した。具体的には、最上位の裁定者である摂関藤氏長者をはじめ、審理者としての平等院、当事者の領主たる園城寺門跡といった諸機関による関与の仕方を、手続文書をもとに復元した。それにより、関係機関それぞれの役割変化が明らかになった。また、当事者-裁定者間を結ぶ意思伝達経路の複数性に着目したことで、関係各者の思惑・持てる力・外的要因など諸要素の複合的作用によって「訴訟手続」が現出するという現象につき、説明のための見通しを持つことができた。これを仮説として洗練すれば、制度・権限および縁故・人間関係の双方を対等のものとして俎上に載せていく、従来とは異なる訴訟の捉え方の提示につながると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定した作業に関してひととおり実施を試みた結果、論文の公表には至らなかったものの、複数回の口頭発表を実現できた。また、予想したよりも仮説形成が前進した。よって本年度においては、全体としておおむね順調に研究が進展したと評価するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
公家政権および荘園領主に対して提起される訴訟の進行プロセスを主対象に、鎌倉幕府裁判との関係を視野に入れて分析を進める。 1、これまでの作業を通じ、幕府以外の裁判については基本的な文書論にも問題が残っており、それが訴訟の作法の包括的研究にとって妨げになっていることが判明してきた。よって、手続文書を指し示す史料用語を手掛かりに、二、三の訴訟文書に関する基礎的認識を更新したい。 2、荘園村落の編成と訴訟対応のあり方との関係解明を進めるため、住人集団による訴訟対応について、より精密に検討する。料紙や筆跡といった形態論の視点を導入して、作成過程の不明な文書の性格を推定することが、ひとつの有効な方法だと考えている。 3、訴訟関係者間の人的関係と訴訟手続のあり方との関連性を実証的に論じるには、より多くの分析材料が必要である。そのため、先行研究にも学びながら、文書集および古記録より事例を収集する。
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Research Products
(2 results)