2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J03699
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
常田 槙子 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | フランス語 / 源氏物語 / 翻訳 / 和歌 / アルヴェード・バリーヌ / ルネ・シフェール / オスカー・ベーネル |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者の研究課題の一つは、フランス語、英語、ドイツ語にそれぞれ翻訳された『源氏物語』の相互の関わりを比較検討することである。この点については、まずベーネル訳『源氏物語』(ドイツ語、1966年完訳)の和歌について、主要なフランス語訳および英訳と比較した。掛詞の扱い方や和歌の解釈などについて、注釈書が充実しているとは言いがたい時代に、ベーネルが原文を十分に読み込んだ上で翻訳していることが明らかになった。また、他の翻訳との比較のなかで、シフェール訳(フランス語、1988年完訳)に特徴的に用いられていると判断し得る単語が認められたため、そのような語を鍵語として、シフェール訳をいかに読むかということを考察し、学会で発表した。これまで翻訳研究は主として原文を再評価する中で使われてきた経緯があるが、この研究方法は翻訳そのものを作品として評価することにつながり、翻訳研究についてあらたな方向性を打ち出すものになってゆくのではないかと思われる。 さらに、前述の研究を進めるのと同時進行で、もう一つの研究課題である受容の問題についても調査を進めたが、この点については、アルベード・バリーヌによる『源氏物語』の紹介記事(初版1883年)の存在が新たにわかったことが特筆すべき点である。同記事は、これまでほとんど言及されたこともなかったが、『源氏物語』の海外での受容を考える際に、その最初期のものとして注目されるほか、バリーヌがフェミニスムの先駆けとも言える存在であったため、フェミニストたちにどのように『源氏物語』が受け止められたのかといった観点からも重要である。バリーヌとその『源氏物語』紹介記事については、バリーヌの『源氏物語』や紫式部に対する評価、ならびに作品理解について、学会で発表したほか、その内容を論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請者は、フランス語、英語、ドイツ語にそれぞれ翻訳された『源氏物語』の相互の関わりを比較検討することを、研究課題の一つにしているが、この点については、論文1本、学会発表1本の成果をあげることができた。また、学会発表した内容については、現在論文を投稿中である。内容としては、ベーネル訳『源氏物語』(ドイツ語、1966年完訳)とシフェール訳(フランス語、1988年完訳)それぞれについて、その他の翻訳書との比較からその特徴を論じたものである。ベーネル訳については、これまでドイツ語訳『源氏物語』の現状を紹介するなかで簡単に触れられることはあったものの、訳文を精査に比較する研究は行われてこなかった。その点において意義のある研究成果だと考える。シフェール訳についても、翻訳を文学作品としてどのように読むかという観点からの研究はほとんどなされていないため、『源氏物語』の翻訳研究に対して新たな方向性を見いだすものになるのではないかと考えている。 また、前述の研究を進めるのと同時進行で、受容の問題についても調査を進めていたが、この点についてはアルベード・バリーヌによる『源氏物語』の紹介記事(初版1883年)に関する研究成果が重要である。バリーヌとその『源氏物語』紹介記事については、学会で報告したほか、論文にまとめた(うち1本は既に刊行済み、もう一本は投稿中)。バリーヌに関して日本語で書かれた論文は管見の限り見いだせず、『源氏物語』紹介については、欧米圏も含めてこれまでほとんど言及されたこともなかったため、新たな研究成果として意義のあるものであると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては、以下の3点を考えている。 まず1点目は、アルベード・バリーヌに関する調査を進めることである。昨年度、バリーヌの『源氏物語』批評文について研究成果をまとめたが、バリーヌの批評文を読んだ人々の反応など、どのように当時その記事が評価されたのかなどについては、まだ調査が行き届いていない。そのため、本年度はさらに調査を進め、初期の『源氏物語』享受をその記事に対する反応から探ることにする。5月のうちに日本で入手できる資料を調査するが、日本国内では限界があるので、6月に1週間ほどフランスにバリーヌに関する資料調査をしに行く。 2点目は、シフェール訳の受容状況に関する研究である。7月には、日本国内で入手可能な範囲でフランスにおける『源氏物語』受容に関する文書を調査した上で、2週間フランスに滞在し、フランス国立図書館でシフェール訳の書評のほか、『源氏物語』について言及している文書を収集する。特に、シフェール訳の前半が刊行された1978年前後、同訳の後半部分が刊行された1988年前後、レジェリー=ボエール監修の豪華版『源氏物語』が出版された2007年前後の3つの時期について調査する。8月のうちに、収集した資料の分析と考察を行うとともに、それ以前の受容状況などとも合わせ、フランスでの『源氏物語』受容について体系的にまとめる。 3点目は、複数の翻訳書の比較検討を行う。特にベーネル訳とシフェール訳の影響関係を軸にした上で、「蜻蛉」巻の翻訳方法について取り上げる。受容状況に関する研究と同時進行で進めるが、特に10月までにまとめ、12月に発表できるように準備を進める。 なお、本来は12月までに博士論文をまとめる予定であったが、12月までは、上述の研究に専念することとし、1月から3月にかけて、博士論文をまとめる予定である。
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Research Products
(5 results)