2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J04909
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井上 将文 北海道大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 東郷実 / 植民思想 / 植民政策 / 札幌農学校 / 帝国議会 / 立憲政友会 / 北大図書館北方資料室 / 北海道大学大学文書館 |
Outline of Annual Research Achievements |
「政党政治家の植民思想に関する研究」を研究課題に据える申請者は、特別研究員(DC2)の採用以来、札幌農学校(現北海道大学)出身にして、代議士として植民政策の立案・実践に深く関与していた東郷実の農業植民思想の解明に取り組んできた。東郷実は、台湾総督府官吏及び代議士(主に立憲政友会所属代議士)として一貫して戦前日本において植民政策に携わた人物であるためにその研究の必要性が度々指摘されていたが、体系的な研究がなされるには至っていなかった。本研究は、東郷に関する初の体系的研究である。それと同時に、従来の研究では十分に検討されてこなかった、戦前日本の議会政治における政治問題・外交問題としての植民問題の重要性を提示したものであるといえる。申請者はこれまで「東郷実の農業植民論」が『日本歴史』791号(平成26年4月号)に掲載されて以来、「東郷実の農業植民政策構想の形成」、「中堅代議士時代の東郷実と『満洲国建国』」、「東郷実の植民省構想」という3つの論文を査読誌に投稿した(いずれも現在審査中)。今後は、論文「東郷実の農業教育政策構想」及び「日中戦争と東郷実の『革新政策』」を査読誌に投稿し、博士論文『東郷実と帝国日本』の北海道大学大学院文学研究科への提出を予定している(「東郷実の農業教育政策構想」については現時点において既にほぼ完成しており、「日中戦争と東郷実の『革新政策』」についても、今年夏頃までの完成を目指している)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請者が自身の研究の進展を認める理由として、所属研究機関において史料収集が順調に進んだことが挙げられる。東郷実の思想及び政策構想を扱う本研究において、彼の出身である北海道大学において本研究課題を進めてきた申請者は、これまで、北海道大学北方資料室所蔵の「高岡・松岡パンフレット」等の各種パンフレット群に収められている諸史料や、北海道大学大学文書館所蔵「高岡熊雄関係文書」所収の書簡群等、北海道大学付属の諸研究機関に所蔵されている数多くの貴重史料を用いてきた。そうした貴重史料にあたることによって、帝国議会や各種雑誌媒体における東郷の発言や、新聞等で確認される東郷の動向をより深く理解する至ることができた。また、北海道大学附属図書館における『斯民』・『帝国農会報』・『外交時報』といった雑誌史料の充実も、本研究を進めていく上での大きな手助けとなった。 さらに、東郷の思想及び動向を研究の中心に据えることによって、本研究の目的の一つである、帝国日本を無謀な戦争へと導いた論理を導く作業を順当に進めることができた。研究の進展によって、代議士転身後の東郷の植民思想が札幌農学校時代に形成した植民論を継承・発展させていったものであることを理解することができた。博士論文『東郷実と帝国日本』では、日本の勢力圏の拡張(帝国日本の「膨張」)を骨子とする東郷の植民思想が、日中戦争以降における一つの戦争正当化の枠組みを提示し得ることものであったということを解明できると考える。日中戦争以降、東郷は、政党勢力の中心的存在となっていた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、北海道大学附属の諸研究機関所蔵の諸史料の収集に努める必要がある。まず、北海道大学大学文書館所蔵「高岡熊雄関係文書」所収の高岡宛東郷実書簡の解読は、本研究を進めていくうえで重要であると考えられる。高岡熊雄は、東郷の札幌農学校時代の指導教官の一人であった。申請者はこれまで東郷の書簡を解読し、その中において彼の思想及び政策構想、及び政治的動向が提示されていたことを発見し、すでにその一部を自身の論文の中で指摘してきた。ただし、1930年代の彼の書簡については十分に解読するに至っていないので、1930年代以降半ば以降において政治的に成長した東郷の思想や政策構想及び政治的動向を理解する上での重要な史料となることが予想される。 加えて、北海道大学附属図書館北方資料室所蔵のパンフレット群には、東郷の一次史料のみならず、彼周辺の動向を理解するために重要な貴重史料が多く収められている。たとえば「高岡・松岡パンフレット」、「高岡北海道パンフレット」、「北資パンフレット」といった諸パンフレット群には、東郷と密接な関係にあった帝国農会関係の貴重史料や、地方農村関連の貴重史料が多く存在している。こうした史料の収集・解読は、代議士という有権者を代表する立場にあった東郷の政策構想と、有権者の要求との緊張関係を理解する上で重要な手掛かりとなる。そのほか、東郷の思想や政策構想、及び政治的動向を理解する上で、各新聞・雑誌史料や議事録の収集は不可欠である。
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Research Products
(1 results)