2014 Fiscal Year Annual Research Report
多孔質媒質中の二重拡散対流を記述する方程式系の数学的解析
Project/Area Number |
14J05316
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
内田 俊 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | 二重拡散対流現象 / Brinkman-Forchheimer 方程式 / 非圧縮性粘性流体 / 非有界領域 / 非線型現象 / 大域アトラクター / 指数アトラクター / Soret効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度我々は,多孔質媒質中の非圧縮性粘性流体の二重拡散対流現象(流体内の温度-溶質濃度間に生じる相互作用によって引き起こされる通常の拡散現象よりも複雑な現象)を記述する方程式系に対し,以下に挙げる研究成果を得た. (1)一般空間領域上における初期値境界値問題に対し,空間次元4以下の場合について一意的大域解の存在を示した.先行研究と比較すると,より高い空間次元及び広い初期値のクラスにおける可解性を示すことに成功したことになる.この結果は,温度と溶質濃度の挙動を記述する方程式がNavier-Stokes方程式と同様の移流項を非線型項として持つことを鑑みれば,非常に興味深い知見を与えている. (2)有界領域上で方程式系が自励的である場合において,方程式系から生成される力学系に対する大域アトラクター及び指数アトラクターの存在が示された.ここでは境界条件として斉次Dirichlet条件及びNeumann条件のそれぞれを課した場合の力学系について考察した.また,正則性の高いクラスにおけるアトラクターの存在に関しても肯定的な結果を得た.今回用いた手法は,今後方程式系が非自励的である場合を考察する際の基礎として有用となろう. (3)Soret係数の溶質濃度依存を考慮に入れたモデルについて考察し,この方程式系に対する解の存在が示された.また,従来のSoret係数が定数であるモデルに関しては導出が困難であった溶質濃度の非負値性が,Soret係数に連続性と有界性の条件を課した場合に得られることが判明した.おそらく二重拡散対流を記述する方程式系に対して,溶質濃度の非負値性に言及した研究は本結果が最初であると考えられる.今回の結果は,今後溶質濃度の有界性を考察する場合,あるいはSoret係数の条件として実験事実に合致するものを課した場合を扱う際の重要な足掛かりとなり得る.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度我々は,申請時に計画されていた「非有界領域における初期値境界値問題の可解性」及び「方程式系から生成された力学系に対する大域アトラクター及び指数アトラクターの構成」に関する問題に対しそれぞれ肯定的な結果を与えることに成功した. 特に非有界領域における初期値境界値問題の可解性に関しては,先行研究の議論を安易に踏襲することなく,新しい方法論を用いることにより既存の結果よりも広い条件の下での一意的大域解の存在を示している.即ち本年度我々が得た結果は,単に先行研究よりも広い条件で可解性を得たという意味だけではなく,二重拡散対流方程式の解析方法として新たな方針を発見したという意味で価値のあるものであると考えている. 可解性の議論を利用した得た結果の具体例として本年度我々は,「Soret係数の溶質濃度依存を考慮したモデル」について考察し,来年度に計画していた「溶質濃度の非負値性を満たす解の構成」に関する問題について,一つの肯定的な結果を導くことに成功している.今回の問題ではSoret係数の条件として物理的要請に基づくものではなく,数学的にテクニカルな要請に応える条件を課した為,物理的背景に合致するモデルについて考察するという意味で今後も考察の余地のある問題である.しかしながら今回の結果は溶質濃度の非負値性,有界性について議論を発展させていく上で重要な指針を与えたと言えるだろう. 指数アトラクター及び大域アトラクターの存在に関する研究については,本年度は方程式系が自励的である場合のみ扱ったが,境界条件が異なる場合の考察や,高い正則性のクラスにおけるアトラクターの構成などの詳細な調査を行った.これらは今後方程式系が非自励的である場合について考察していく際に参考になることであろう. 以上の理由から,我々は本年度の研究達成度を前記のように評価する.
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度得た結果を踏まえ,多孔質媒質中の二重拡散対流方程式に対して今後推進すべき余地のある問題として以下のものが挙げられる. (1)非有界領域における「時間周期問題の可解性」について調査する.時間周期問題の可解性に関しては先行研究において,Hilbert空間上の抽象問題に方程式系を帰着させることにより空間次元3以下の有界領域の下で結果が得られている.抽象問題を適用するために領域の有界性は不可欠であり,この条件を取り除くことは困難であると考えられていたが,非有界領域における初期値境界値問題が本年度肯定的に解決されたことから,時間周期問題に関しても非有界領域上での可解性を期待することができる.これを踏まえ来年度は特に全空間上での問題を考察する.方針としては全空間領域での解を,既知の有界領域上における問題の解で近似し,収束性の議論を行うことで,時間周期解の構成を行う予定である. (2)方程式系が非自励的である場合の解の挙動を無限次元力学系理論に基づいて考察する.特に来年度は,本年度の結果を踏まえた上で大域アトラクター及び指数アトラクターの存在に関する問題を調査する予定である.非自励系力学系のアトラクターとしては「Pullback Attractor」と「Uniform Attractor」の2種類が挙げられるが,来年度はまず「Pullback Attractor」に関する調査を中心に行う予定である.「Uniform Attractor」に関しても随時検証する. (3)溶質濃度が非負値性,有界性を満たす方程式系の条件に関する研究を行う.来年度はまず,解が有界性を満たすための条件を模索する.ある程度数学的に非負値性,有界性を満たす為の条件を調査した後,物理的な背景と照らし合わせた場合のモデルについて考察していきたい。
|