2014 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ合衆国の「公的記憶」における人種言説と北欧系移民の自己形成
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14J06227
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
鈴木 俊弘 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | アメリカ移民史 / アメリカ社会文化史 / エスニシティ研究 / スウェーデン系移民 / フィン系移民 / 祝祭・記念運動 / 人種主義 / アメリカ:スウェーデン:フィンランド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、戦間期の米国社会において大規模な記念・祝祭に向かう国民の公的記憶の形成過程、およびその典拠たる国民史記述の方法論を支配した記念言説のなかに伏流する人種主義思想について、米国内スウェーデン系・フィン系移民集団の顕彰運動の比較分析から評価することである。 平成26年度は次の2点を主軸に研究を実施した。 (1) 19世紀後半から隆盛したスウェーデン系移民の顕彰運動の展開について、フィラデルフィアおよびデラウェア州の史料調査を実施した。その結果、戦間期米国の人種論階梯で理想的人種集団とされたスウェーデン系移民も無条件に〈白人性〉を謳歌できたのではなく、他の移民集団と同様に社会の主流文化の周辺に位置づけられ、過度の同化を強いられており、かれらの〈白人性〉は、植民地史の公的記憶に祖先の事跡を重ねることで、「米国民史への貢献」という尺度でエスニック集団としての独自性を提示する努力に支えられていたとの知見を得た。 (2) 戦間期の米国社会で外観は〈白人〉と見られつつも、人種論的知識では〈モンゴロイド〉に分類されたフィン系移民は、当時の社会で支配的な人種論階梯の閾値を跨ぐ特異な存在であった。かれらの〈白人性〉獲得の契機とは、第二次世界大戦直近の1938年に開催された「ニュー・スウェーデン入植記念祭」に臨んで、北米入植地のフィン人の貢献を米国民史に新規に承認させたことであった。さらに米大陸植民地建設に寄与したエスニック集団を無条件に理想的〈白人種〉と位置づける公的記憶形成の特性を利用し、「ニュー・スウェーデン入植記念祭」にて東海岸中部州の基礎を築いた理想移民としてのフィン人像を流通させることで、人種論における〈モンゴロイド〉区分の白紙化を図った。以上の例証として、表象研究の手法を導入し、米国戦間期の社会文化言説とフィン系移民表象の交点が人種論階梯の局面に接点していることを議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【スウェーデン移民による事跡顕彰運動の調査】米国の移民史における人種論研究および〈白人性〉(Whiteness)研究のなかで、人種的に「白人」であることが自明視され、その研究対象として看過されてきた米国内のスウェーデン系移民集団についての特有な人種問題の構成とその背景を史料分析によって解明するために、19世紀後半から隆盛したスウェーデン系移民の事跡顕彰運動の展開について、フィラデルフィアおよびデラウェア州海岸地域に残された史料の調査を実施した。その結果、19世紀後半から続いたスウェーデン系移民の事跡顕彰運動とは、米社会の主流文化に完全に溶け込んだことをアピールするのと同時に、溶けきらない部分を人種的独自性と措定することでエスニック集団の社会的影響力を保持する努力であったとの知見を獲得した。 【フィン系移民による文化表象面での〈白人性〉獲得戦略の調査】1938年の「ニュー・スウェーデン入植記念祭」に付随して発行された「記念切手」と、同記念祭に触発されて描かれた「モダニズム絵画」の図像を戦間期米国社会に流通した人種主義表象のテクストを取り上げ、その作品解釈の「行間」として放置されていた社会言説の文脈について人種論の観点からの読み取りを試みた。その結果、フィン系移民は、戦間期米国社会において言表の枠外から効力を発していた人種表象形式の存在を自覚し、極めて周到な戦略を敷いてその誘導に努めていた歴史的背景が判明した。 これらの研究成果を学会の場において発表した。とくに西洋史学会でのポスター発表は高い評価を与えられ、優秀賞の受賞および受賞記念講演につながった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度までの研究結果を重層的に論証するため、米合衆国の各文書館に所蔵されている一次史料の収集とともに、移民者たちの出身国であるスウェーデン王国、フィンランド共和国での文書および表象資料の調査を実施する。とくに戦間期米国の入植祝祭にイデオロギー的な世界観を提供していた人種階梯論が、米国の国民史記述や米国社会の公的記憶の形成の素地を提供していたのみならず、大西洋を越えた移民者たちの出身国における国民史記述や公的記憶の形成にも素地となり、強力に共有されていたという仮説を論証することを主眼に、綿密な史料収集を遂行する。
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Research Products
(3 results)